ダマされた~ と叫ばないために
燃費測定モードのハナシ

2017/06/21 公開

jc08
イエね、けっして自動車メーカーをかばうつもりはありません。
でもね、ネットのコメントなどでよく見かける

カタログ燃費の7割しか走らねェじゃねえか! 詐欺だ~!

という書き込みは、明らかに消費者側の無知によるもので、メーカーを責めるのはスジが違うと思うのですよ。

だって、32km/Lなんて数字のそばには、必ず上の画像のように「JC08モード」って注釈が書いてあるのですから。
そりゃ、「JC08モードが現実的な走行パターンであるかどうか」という問題はあるにしろ、何かしらのルールが無ければ、互いを比較できないのですから仕方がりません。

それでも、どーしてもカタログ燃費と実燃費の差が気に入らなければ、ルールに則って数字を発表しているメーカーを責めるのではなく、国交省に文句を言うべきでしょう。

こんなクソみたいな測定モード、直ちに廃止しろ!

と、ネ。

もちろん、責めてはいけないのはルールに則っているメーカーで、ズルをしてるメーカーはドンドン責めてあげてください。

あと、広告のためだけに、小さな燃料タンクを積んだグレードやエアコン無しのグレードを用意しているメーカーも責めてやってください。

5千円ポッキリだから!

と誘われて呑んじゃうと、2万円請求される店と、

燃費は37.2km/Lです!

と誘われてお店に入ると、37.2km/Lはエアコン無しです。エアコン付は34km/Lです、というお店とでは、どちらが悪質でしょう?


カタログ燃費、つまりJC08モード燃費が良くなるようにエンジンやらトランスミッションを調整し、それ以外では燃費よりも加速性能を重視するなんてことは、どこのメーカーでもやっていることで、
お客さまには、試乗で十分な加速力にご満足いただき、長く使わなければ知りようがない燃費はカタログ上でご満足いただくわけです。
しかし、これはルール違反ではない。
輸入したアサリを、いったん国内の浜辺に撒いてから収穫すると原産地は「日本」、となるルールがある以上、外国生まれのアサリの原産地は日本と表記されてしまうのです。
ただし、それが良心的であるかどうかは別のハナシで、JC08の走行パターン通りにクルマを使うユーザーが皆無であるのだから、実用燃費を二の次にしてカタログ燃費だけを追い求めるのは謂わば粉飾。
ユーザーサイドにたったクルマ作りとは到底言えないわけです。
まあ、商売だと言えば、それが商売なわけですが・・・



さて、本題です。
2018年10月から、燃費測定のための方法がJC08モードからWLTCモードに切り替わります。
WLTCの話の前に、燃費測定モードの歴史を振り返ってみましょう。

10モード

まず申し上げなければならないのは、これらのモードは、そもそも燃費測定のためではなく、排ガス測定のために導入したものです。
自動車メーカーが新型車を開発したら、これらのモードでも排ガス量を測定して基準以下なら、お役所が「売ってもいいよ」と許可をくれるわけです。

燃費の測定方法として、1973年以前は60km/h定地燃費が使われていたそうです。
まっ平らな直線道路を60km/hでトコトコ走ったときの燃費。
思い返してみれば、80年代のカタログには10モードと定地燃費が併記されていた記憶があります。

Wikipediaに面白いことが書いてありました。
「60km/hにおける定地燃費を意識するあまり、極端なギア比と出力特性のエンジンを組み合わせた自動車が登場するなど、表記上の燃費と実際の燃費が乖離し・・・」

嗚呼、ここでも粉飾! 人間のやることなんて、今も昔も変わりませんなァ~

で、1973年からは10モード燃費が採用されました。
10モードの走行パターンは以下の通りですが、東京都内の靖国通りの走行パターンをモデルとした、と言われています。
10mode
この10モード、測定時はエンジンを完全に暖機し終えた状態で行います。

もし、当時のカタログに10モード燃費・9.7km/Lと記載されてあれば、十分に暖機した後に

1. アイドリングで20秒
2. 20km/hまで7秒で加速
3. 15秒間20km/hで走行・・・

とやれば、9.7km/Lに近い燃費が出るはずです。

ですが、九段下の交差点で30秒待たされたり、黒塗りベンツに煽られて70km/hまで急加速してしまったら9.7km/Lはけっして出ないのです。(※注: 靖国通りのドコをモデルにしたのかは存じません)

10・15モード

1991年、市街地として靖国通りをモデルにしていた10モードに加えて、郊外を対象とした15モードが追加されました。
ですので、10・15モードは10 + 0.15ではなく、「10モードと15モード」ということになります。
ちなみに、郊外のモデルは甲州街道だそうです。
15モードの走行パターンは以下の通りで、10モードを3回繰り返した後に15モードを行うのが10・15モードとなります。
1015mode
これも10モードと同様で、上高井戸の交差点で渋滞にはまったり、八王子ヤンキーのバイクに煽られたりしたら、当然のことながらカタログ通りの燃費は出ません。(※注: 甲州街道のドコをモデルにしたのかは存じません)

ワタクシメ、ふと気づいたことがあります。
10・15モードが導入されたのは1991年。
その3年前には、255馬力のVG30DETエンジンを搭載した初代 ニッサン シーマ(Y31型)が登場しています。
あのテールを深々と沈めて猛然と加速していく255馬力です。
翌1989年には280馬力のR32型GT-R、1990年にはNS-X。
なのに排ガスとか燃費を測定するのは40km/hまで・・・

まったく、国のやることはイチイチ遅くて・・・

と不満を感じないわけではありませんが、
今更になって気づくワタクシメもワタクシメなので、国会議事堂の前で太鼓をたたきながらリズムに乗ってシュプレヒコールをあげるのは自重しておくこととします。

JC08モード

2011年に導入されたのが、ご存知JC08モードです。
jc08
10・15モードに比べ、より高速で(平均速度、最高速度)、より長時間、より長距離で測定するようになりました。

カタログ燃費の7割しか走らない!
とおっしゃるお客さまには、このグラフをご覧になっていただき、タイヤ空気圧を適正値にし、不要な荷物をおろし、風のない日にまっ平らな直線道路で、信号が赤であろうが青であろうが、制限速度を超えようが、どんなに暑くてもエアコンをOFFにして、グラフ通りに運転していただければ、おおよそカタログ燃費に近い数字が出ることをご説明しましょう。
きっとお客さまは顔を真っ赤にしてお帰りになり、二度と新車をご購入いただけないとは思いますが・・・

WLTCモード

WLTCは、Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycleの略で、素直に訳せは「世界統一軽負荷運転の試験手順」でしょうか。
このWLTC、三菱やスズキの燃費不正問題が発覚してから話題に上るようになりましたが、何も三菱やスズキ対策として導入が決まった訳ではなく、2012年あたりから国交省が検討を始めていたものです。

WLTCでは、まずクルマを出力重量比でクラス分けします。
お馴染みのパワーウエィトレシオ(kg/PS)ではなく、パワーマスレシオ(W/kg)を使います。
パワーマスレシオが22W/kg以下がクラス1、22から34がクラス2、34以上がクラス3となります。
???・・・馴染みのないパワーマスレシオなので、なんのコッチャ全然わかりません。
では、トヨタ車でパワーマスレシオを見てみましょう?

 車名   出力(W)    車重(kg)    パワーマスレシオ(W/kg) 
ピクシス36,000 670 53.7
ビィッツ  (1.3L)73,000 1,010 72.3
カローラ (1.5L)80,000 1,365 58.6
86152,000 1,250 121.6
マークX(2.5L)149,000 1,510 98.7
クラウン(3.5L)232,000 1,650 140.6

ををを!
ナンとなく、イメージをつかめました。

ビィッツやカローラはもとより、軽自動車のピクシスでさえ34W/kg以上なので、日本で売っているクルマはほとんどがクラス3であることがわかります。

次に走行モード。
クラス3の走行モードは以下のグラフの通りです。
wltc
JC08モードと比べ、測定時間が長いとか、グラフの形が違うとか以外の差異は以下の通りです。
  • 4つのフェーズに分かれている(市街地: LOW《緑線》、郊外:MEDIU《青線》、高速道路: HIGH《黄色線》、超高速: Extra HIGH《赤線》)
  • JC08モードでは、エンジン冷間始動:25%、温間始動75%で測定して合算していたが、WLTCでは冷間始動100%
  • JC08モードでは、一律に車両重量 + 110kgで測定していたが、WLTCではスペアタイヤや車載工具も含む
  • JC08モードでは、メーカーが測定した空気抵抗データーを使用していたが、WLTCでは風洞を使う(スズキがインチキしたヤツですね)

日本では、100km/hを超える測定は無意味なので、Extra HIGHフェーズは採用しないそうです。

ここで気を付けなければならないのは、WLTCはJC08モードより実走行に近くなりますが、それでも実走行とは違うということです。
カタログ燃費がWLTCモードで測定された数値になったところで、それはあくまで上図のグラフの通りに走ったときの数値で、ユーザー一人一人の使用条件とは違います。
ですので、

ンだよッ! 新しい燃費基準になったのに全然だめじゃン!

というご知人がいらっしゃたときに優しく諭してくだされば、ワタクシメもこのサイトを作る甲斐があるというものでございます。



さて、ワタクシメ、このWLTC導入について、ひとつ楽しみがございます。
自動車雑誌やWebの記事で、マツダのエンジニアがこんなことを言っているのを目にしたことがあります。

「マツダは、現実とかい離したJC08モード燃費より、実走行の燃費を重視している。」

これをマツダファンが読むと
「さすがマツダだ。良心的じゃないか!」
となり、
アンチ・マツダの人が読むと
「JC08モードでいい結果をだせなかった見苦しい言い訳だろ!」
となります。

もちろん、どちらが真実なのかはワタクシメは存じません。
しかしココにちょっとした秘密が隠されています。

cx-3
今夏に発売されるCX-3で、マツダはJC08モード燃費に加え、いち早くWLTCモード燃費を発表しました。

 モード   燃費(km/L) 
JC0817.0
WLTC合算16.0
市街地モード12.2
郊外モード16.8
高速道路モード18.0
実燃費とかい離したJC08モード燃費が17.0km/Lで、より実走行に近いWLTCモード燃費の合算値が16.0km/L。
マツダの言いたいことはこうです。

以前から弊社は現実味の乏しいJC08モード燃費より、実燃費を重視してるって言っていたでしょ。
確かに弊社の製品は、他社と比べてJC08モード燃費は良くなかったかもしれません。
でも見てください!
JC08モード燃費とWLTCモード燃費が6%しか違わないでしょ!
これは、カタログ上の数字に血眼をあげる他所様より、弊社が如何に良心的かお分かりになるでしょ!


別にマツダの肩を持つわけではありませんが、JC08モード燃費とWLTCモード燃費の下落率こそ、その自動車メーカーの良心度を測るバロメーターなのです。

とにかく売れちまえばコッチのもんだ!

と、実燃費は放っておいて、カタログ燃費だけを追い求めたメーカーでは、この下落率が大きくなるのです。
そう、燃費の粉飾です。
この粉飾の度合いが大きければ大きいほど、そのメーカーはユーザーサイドに立ったクルマ作りをしていない非良心的である、ということになります。
どのメーカーが良心的で、どのメーカーが商売第一主義であったのか、ワタクシメ、この下落率を見ることが楽しみでなりません。

楽しみではありますが、しかし懸念が無いわけではありません。
10モードから10・15モード、10・15モードからJC08モードに移行した時にどうであったか、全く記憶がないのですが、
おそらく来年10月にWLTCモードが導入されても、その時点での既存車種は従来のJC08モード燃費のままとなるのではないかと懸念しているのです。
つまり、WLTCモードが適用されるのは新たに型式認証するクルマ、マイナーチェンジやフルモデルチェンジしたクルマのみではないのかと。
フルモデルチェンジの場合は、エンジンやらトランスミッションが変更され、既存モデルと比較することができません。
エンジンやトランスミッションに大幅な変更がないマイナーチェンジであっても、マイナーチェンジしてしまえば、旧モデルの諸元表はウエッブサイトからなくなるわけで、新旧の比較は難しい。
現行の全モデルの諸元表を保存しておけばいいのでしょうが、ワタクシメにそこまでの情熱と時間があるかというと・・・タブンムリ

一見、いち早くWLTCモード燃費を公表したマツダですが、
公表したのは既存グレードにはないガソリン2.0Lエンジン車だけです(現行CX-3はディーゼル1.5Lエンジンのみ)。

イエね、ワタクシメは断じてアンチ・マツダではありません。
むしろマツダ車は好きです。
ですので、マツダがJC08モード燃費よりも実燃費を重視している、という主張は信じたいのです。
信じたいのですが、しかし「信じる者は騙される」という格言(?)もあります。

ワタクシメのような疑い深いショーヒシャの懸念を晴らすためにも、マツダには是非とも既存車種のWLTCモード燃費も発表していただきたい、と思うのです。

エ~、わが社のCX-3 Skyactiv1.5DのJC08モード燃費は23.0km/Lでございますが、WLTCモード燃費は○○km/Lでございます。
なんと下落率は××%しかございません。
この数字は、これまで弊社がカタログ燃費を粉飾せずに、如何にユーザーサイドに寄り添った製品作りをしてまいったかの証明でございます。
今後も、CX-3をはじめとしたわが社の製品を・・・


と発表してくれれば、拍手喝采、マツダはオトコの中のオトコだと、なるのですが・・・



不肖ワタクシメ、税金はちゃんと払っています。
所得税も、消費税も、酒税もタバコ税も。
もちろん自動車税も重量税も滞納するとこなく納めております。

そして楽しみと言えば、オッサン読者諸兄にこの駄文を読んでいただくか、来年10月から粉飾燃費メーカーが明らかにされることくらいしかありません。
ですので、国交省のお役人には既存車種へのWLTCモード燃費適用を、是非とも自動車メーカーに指導していただきたいのです。

ゼーキンちゃんと払ってるんだからさ~

そのくらい忖度してくれないかなァ~

【 これは広告です 】

ワタクシメが開発に参加した、自動車整備士資格取得のための
Web教材「i-Tasu」の宣伝です。

i-tasu_1 i-tasu_2 i-tasu_3

i-Tasuは教育機関向けなので、このサイトを覗いていただいている読者方々の大部分にはあまり関係がないかと思いますが、

「ふーン、こんなのもあるんだァ」

くらいに思っていただけると幸いであります。

(粉飾燃費メーカーが明らかになったら)

続く