BEV(電気自動車)
2023/02/05 公開
4年ぶりの更新となります。
以前から弊サイトをご覧いただいている方、大変ご無沙汰しております。
初めて見たという方、ハジメマシテ。
諸般の事情により2018年12月から更新出来ずにおりましたが、その間に、クルマを取り巻く社会の景色がスッカリ変わってしまいました。
そう、 BEV です。
バッテリーイ-ブイとかビーイーブ、業界のヒトや通のヒトはベブと呼びますが、いわゆる電気自動車です。
いったい、この数年でBEVはどのくらい増えたんのでしょう?
まずはBEV先進地域のEUです。
グラフは、ACEA(欧州自動車工業会)のデーターを基に作りました。
BEVの増加に目が行く前に、純ガソリン・ディーゼル車の減少具合に引きます(笑
一部意識高い系の方々がBEVの伸長ばかりを強調するのですっかりその気でいたのですが、HEVやPHEVも大きく伸びているようです。
お次は、我が日本市場の様子
もう横這い過ぎてグラフではよくわからないので、数字で言うと2018年から2022年(11月まで)は、
0.9%、0.8%、0.6%、0.9%、1.3%
となっています。
なるほど、一部意識高い系の方々がイライラして攻撃的になるのも分かる気がします。
日本の路上にBEVが溢れかえるには、まだまだ時間がかかりそうです。
とは言え、弊サイトのタイトルは「どうよ今のクルマ」。
まだまだ少数とは言え、今の路上を走っているのですから取り上げないわけには参りません。
どうやってBEVは走っているのか、解説にレッツラゴー! です。
BEVを走らせるのに必要なのはバッテリーとモーター。
このイラストが最も原初的なBEVの駆動装置です。
ミニ4駆も安価なラジコンカーもプラレールも、みんなコレです。
ただし、コレだけでは加速も減速もできないので、下の図のように可変抵抗を加えます。
最初期の電気自動車はこの仕組みで動いていたと思われます。
このクルマはデトロイト・エレクトリック社製のモデル60で、デトロイト・エレクトリック社では1906年から1930年代までで約14,000台のBEVを製造。
モデル60は42ボルトバッテリーを2個並列、または84ボルトバッテリー1個で、最高速度約20マイル/h(32km/h)、航続距離約70マイル(113キロ)の性能であったそうです。
「販売した」と言う実績では、実はガソリンエンジン車よりもBEVの方が5年早く、1891年のことで、「100km/hを超えた」という点でも、BEVはガソリンエンジン車よりも先んじていたそうです。
しかしながら、その後のガソリンエンジン車 VS BEVの結果は皆さんご存じの通り。
BEVには、なにやら致命的な欠点があったに違いありません。
言うまでもなく、直流モーターの原理です。
「フレミングの左手の法則」とか、「右ねじの法則」とか、もはや久遠の彼方というオッサン読者諸兄は、ググって中学校の理科を思い出してください。
さて、電気で走るといえば、大家は鉄道です。
黎明期の電車も、直流バッテリーと直流モーター、電気抵抗を使って速度調整をしていたはずで・・・、と思ってググってみたら、予想していたよりずっと最近まで、この原理が使用されていました。
国鉄185系なんて、比較的最近の車両なのに、まだ電機抵抗を使って・・・
と思ったら大間違い。
ワタクシメの歳になると、昔の出来事が多すぎて、脳内データーベース上での順番がマゼマゼされてしまっているのです。
なんと、踊り子号で有名なこの185系、デビューは1981年、実に40年以上まえの話でした・・・トホホ(涙
子供のころ、「カッコいい電車だ! 一度は乗ってみたい!」と羨望のまなざしで見た踊り子号が、こんなレトロでアナログチックな仕組みで走っていたとは、ワタクシメの子供時代が如何に昔であることを思い知らされました。
ちなみに、このころの電車は単純に電気抵抗の組み合わせによる制御であったわけではありません。
低速時こそ抵抗値の異なる電気抵抗の組み合わせによる「抵抗制御」でしたが、車速が上がるにつれ「直並列組合せ」、「弱め界磁制御」と、高効率を求めて制御方式を変えていたそうです。
この制御の名称、どう思われますか?
クルマでは、やれツインターボだ、VTECだ、スーパーストラットだと、横文字を並べて顧客の購買意欲をくすぐるわけですが、鉄道会社にその必要はありません。
「抵抗制御 + 直並列組合せ + 弱め界磁制御」・・・好感が持てます。
この抵抗を使った制御、無駄が多い。
本来バッテリーが持っている電気のエネルギーを、電気抵抗で熱エネルギーにして捨てて、残った電気エネルギーでモーターをゆっくり回す。
SDGsな世の中ででは、一部意識高い系の人々が卒倒してしまいそうなくらい無駄の塊です。
モッタイナイ~
の精神で、1970年、阪神7001・7101形電車が、日本で初めて営業運転において電機子チョッパ制御を採用しました。
えっ、なぜ、電車の歴史・・・?
と、突っ込まれたオッサン読者諸兄、的確です。
ただ「好きだから」としかお答えしようがありません。
ココはしばらく目をつぶってお付き合いいただきたい。
で、そのチョッパ制御は、以下のような原理で制御を行っています。
一周期内で、電圧をかける時間とかけない時間の比率を変えることで、モーターの回転数を制御します。
これならば、電気抵抗によってエネルギーを捨てることがありません。
ちなみに、この制御方法はクルマにも使われています。
クルマを走らせるためのモーターの制御ではなく、ガソリンやディーゼルエンジンで空気の量を調整するバルブの制御などに用いられています。
アイドルコントロールバルブやEGRバルブなどです。
ただしクルマの場合、チョッパ制御ではなく、デューティ制御と呼びます。
電機子チョッパ制御は、サイリスタ・チョッパ制御とも呼ばれていて、これは電圧の比率を変化させるための制御にサイリスタという半導体を用いていることに由来します。
サイリスタ・チョッパ・・・
ちょっとカッコよくないですか?
なんだか購買意欲をくすぐられる名称です。
クルマ好きオッサンが愛車自慢します。
「俺のマシンは、抵抗制御 + 直並列組合せ + 弱め界磁制御だぜッ!」
「俺のマシンは、サイリスタ・チョッパ制御だぜッ!」
絶対に後者の方がカッコいい。
赤城山を速く登れるのも、湾岸高速でブッチ切れるのも、サイリスタ・チョッパ制御のクルマに違いありません!
次いで登場するのはVVVFインバーター制御です。
国内初は、1991年、新京成8800形電車。
VVVF・・・
サイリスタ・チョッパより3倍くらいは購買意欲を刺激されます。
カッコいいアルファベットトップグループに位置する「V」(個人的見解)を3つも使い、さらにセカンドグループの「F」も。
これでカッコ悪いわけがありません。
クルマで言えば、V8ツインターボ並です。
ようやく話がクルマに戻ります。
現代のBEVやハイブリッド車の電動も、この制御方式を用いています。
ただし、VVVFインバーター制御とは呼びません。
勝手に想像するに、電車には制御方式が複数あるので、それぞれの呼び名を付けなければなりませんが、クルマにおいては今の制御方式が事実上一つ目の方式なので特に呼び名を付けて区別する必要が無いのかと・・・。
おそらく、将来的に全く別の制御方式が登場した時点で、何らかの呼び名がつけられるのではないかと愚考する次第であります。
BEVやHEVでモーター制御に用いられているインバーターを見てみましょう。
下図にある通り、バッテリー、インバーター、モーター、インバーターを制御するECUから構成されています。
モーターは直流モーターではなく、三相交流モーターが使われています。
インバーター内のTr1~Tr6はトランジスターを表しています。
このトランジスターこそが、今、経済記事上で時折見かけるパワー半導体です。
と、その前に「トランジスターとは何ぞや?」というオッサン諸兄はコチラを。
要は、小さな電気のON/OFFで、大きな電気のON/OFFができるのがトランジスターですが、パワー半導体とは、この「大きな電気」の扱える大きさが、パワー半導体では一般的な半導体とは桁が違うのです。
BEVやHEVに用いられるトランジスターは、300~400ボルトの電気を扱います。
ポルシェ・タイカンに至っては800ボルト(!)です。
では、インバーターの作動を見てみましょう。
現在主流のパワー半導体は2kHzのスイッチングが可能だそうで、1秒間に2000回のON/OFFを繰り返すことができます。
1分間に12万回・・・
ガソリンエンジン好きでアンチEVの懐古主義車のオッサン読者諸兄、しかし臆することはありません!
1987年型ホンダ・CBR250Rの許容エンジン回転数は18,000rpmです!
比べてどうする・・・(笑
「ドレミファ・インバーター」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
またまた電車の話で恐縮至極でありますが、歌う電車こと京急2100形電車です。
このリズミカルなモーター音、インバーターによって奏でられています。
そもそもこの音は励磁音と言いまして、音を出すのはモーターで、音を出させるのがインバーターです。
モーター内のコイルが巻かれた鉄心が、コイルに電流が流れたり止まったりする度に伸縮します。
その鉄心の伸縮が周りの空気を振動させて音となり、我々の鼓膜に届くということだそうです。
ですので、VVVFインバーター制御の電車ではどの電車でも特有の発進音がするのですが、この京急2100形電車に採用された独シーメンス社製のインバーターは可愛らしいリズムを刻むようわざわざチューニングされたそうです。
洒落とかカワイイとか無縁のドイツ人、というイメージを持っていたのですが、
ナカナカやるな、ドイツ人!
しかし残念ながら、このドレミファ・インバーター車両は、2021年7月20日にすべての編成が引退してしまっており、実物のリズムを聞くことは叶わなくなっております。
京急2100形電車と同世代電車のインバーターに用いられたパワー半導体はGTOサイリスタで、このためGTO-VVVFと呼ばれ、その後の世代ではパワー半導体にIGBTが使われているので、IGBT-VVVFと呼ばれています。
現代のBEVやHEVでも、パワー半導体の主流はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor: 絶縁ゲート2極トランジスター)です。
ここで老眼が進むオッサン読者諸兄に注意喚起です。
BEVに使われているのは、アイ・ジー・ビー・ティー。エル・ジー・ビー・ティーとは全く違います。
このサイトでは、基本的に全角アルファベットをつかっていますが、半角アルファベットで、さらにフォントサイズが小さい場合・・・
IGBT LGBT
嗚呼、俺の毛様体筋よ!(涙
いいですか、よく聞いてください。
ニュース記事を読んでいて、自動車、電子部品などの経済記事ではアイ・ジー・ビー・ティー、差別だとか同性婚などの社会記事ではエル・ジー・ビー・ティー。
お間違いにならないことをお祈りします。
閑話休題
GTOサイリスタ → IGBT と進化したパワー半導体ですが、すでに新世代が姿を見せ始めています。
それがSiC-MOSFETです。
MOSFET(モスフェット)は、構造はトランジスターと異なりますが、小さな電気で大きな電気をON/OFFするという機能は同じです。
現在のIGBTはSi(シリコン: ケイ素)を素材としていますが、同じシリコンベースであればMOSFETよりIGBTの方がBEVのインバーターには適しているそうです。
が、SiC(シリコン・カーバイト: 炭化ケイ素)を素材としたSiC-MOSFETは、Si-IGBTを軽く凌駕する性能だとか。
ただし、もちろんお高くなります・・・(涙
さらにさらに、GaN-FET(窒化ガリウム 電界効果トランジスタ)。
GaN-FETは、SiC-MOSFETよりさらに高性能だそうですが、まだBEVのように大きな電気を扱うは向いていないようですが、将来的にはどうでしょう?
OHV → OHC → DOHCと、エンジンのバルブ駆動の仕組みが進化してきたと同様に、パワー半導体もIGBT → SiC-MOSFET → GaN-FET(実用化されれば)と進化するはずです。
かつて、ドアの横にDOHCやTWIN CAMと、恥ずかしげもなくデカデカとステッカーを貼り付けていた時代がありました。
それが正義であるとするのであれば、現代の正義はコレです。
これならば、漢字Tシャツ大好きな陽気なアメリカ人にもご満足いただけそうです。
ちなみに、本稿執筆時点でワタクシメが把握しているSiC-MOSFETを採用例は、テスラ・モデル3、ヒョンデ・アイオニック5。
日産も、トヨタも、ホンダも、IGBT・・・
ドイツ車ならまだしも、まさか最新技術の導入で韓国メーカーや米国メーカーの後塵を拝するとは・・・・・・時代は変わりました。
しかし、トヨタがダメでも、日産がダメでも、ホンダがダメでも、ニッポンにはこれがあります。
新幹線N700S系、SiC-MOSFETです!
(電車の話の伏線回収!)
【 これは広告です 】
ワタクシメが開発に参加した、自動車整備士資格取得のための
Web教材「i-Tasu」の宣伝です。
i-Tasuは教育機関向けなので、このサイトを覗いていただいている読者方々の大部分にはあまり関係がないかと思いますが、
「ふーン、こんなのもあるんだァ」
くらいに思っていただけると幸いであります。
i-Tasu特設サイトはコチラ
YouTubeチャンネルはコチラ
完
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