最新ガソリンエンジン
- 第5回 点火系 その4 -
2015/09/24 公開
♪トランジスタのボリューム上げて 初めてふた~り♪
と、チェッカーズが歌ったのは1984年。
当時、すでにクルマの側面やトランクにはEFIだとか、EGI、PGM-FIなんて電子制御であることを高らかに謳ったエンブレムやステッカーが貼ってあった時代ですから、すでにトランジスターは様々な場面で使われていたはずです。
なので、ティーンエイジャーであったワタクシメには、トランジスタ = トランジスターラジオという図式を理解することはできましたが、一般的な呼称ではありませんでした。
ですが古臭いそのラジオの呼び名は、むしろ新鮮でカッコよくさえ聞こえたものです。
では、トランジスタ = トランジスターラジオの図式が成立していたのは、いつの頃なのでしょう?
気になったので、ちょっとググってみました。
Wikipediaによると、それまでの真空管ラジオに変わってトランジスターラジオが普及したのは1950~60年代だそうです。
となると、プレスリーとかビートルズをリアルタイムで聴いていた大々先輩にとっては、トランジスタ = トランジスターラジオなのではなかったのかと思います。
ちなみに、世界で初めて自動車にトランジスターラジオを採用したのはクライスラーで、1955年のことだそうです。
さらにちなみに、1985年公開の映画「バック トゥ ザ フューチャー」でマーティンが戻った過去が1955年。
おおっ!
チェーカーズが1984年、世界初の自動車用トランジスターラジオが1955年。
ナンとも奇妙な符合が・・・。
まっ、それはドーでもいい話ですが、もう一つドーでもいい話を。
最近では電子制御を自慢するクルマもありませんからすっかり聞かなくなりましたが、EFIは電子制御燃料噴射装置の略でトヨタが、EGIは電子制御ガソリン噴射装置で日産やマツダが使っています。PGM-FIはプログラムド フューエルインジェクションの略で、ホンダが使っていました。
聞かなくはなりましたが、各車の主要諸元表の燃料供給装置の欄には、EFIとかEGIとかPGM-FIとかのしっかり記述されています。
気になられたオッサンは各メーカーのWebサイトへGOです。
さて、今回の主人公はトランジスターです。
多くのオッサン方々はご存じだとは思いますが、最上段の写真がトランジスターです。
いわゆる半導体で、条件によって電気を流したり止めたりする電子部品です。
さてさて、このトランジスター、
今を遡ること三十有余年、ワタクシメが中学生であった頃、工作(技術という教科名だったと思うのですが・・・)の授業でトランジスターラジオを作ったことがあります。
たしかそのとき、ラジオの中に組み付けられたトランジスターは1個か2個であったと記憶しています。
ラジオには、それで十分なのですね。
で、時が流れること三十有余年。
昨年に発売されたインテルのCPU、Core ⅰ7-5960K には26億個のトランジスターが内蔵されているそうです。
まあ、生きた時間の長さを自覚しないわけではありませんが、1個→2,600、000,000個という変化を鑑みると、これまで無為に過ごした時間の長さに嘆息せざるを得ません・・・(涙
閑話休題。
ちょっと計算してみました。
1970年代に、ポイント式点火装置付の4気筒エンジンのクルマに乗ったオッサンが、片道30分のマイカー通勤をしていたと想像してみてください。
交通状況によって大きく変わってしまうので、ここではその30分間の平均エンジン回転数を、エイッやと2,500rpmと仮定します。
1分間に2,500回転ですから、4気筒エンジンの場合、コンタクトブレーカーは5,000回断続を繰り返すことになります。
で、30分間の片道で150,000回、往復で300,000回の断続となります。
70年代ですから、オッサンの会社は週休1日。
週6日の通勤で、1,800,000回の断続です。
法定6か月点検の間の27週間ですと、48,600,000回になります。
大きな数字になるであろうことは予想していましたが、実際に計算してみて、ちょっとビックリしました。
まさか、5千万回近くになろうとは・・・
で、何故こんな計算をしたかと申せば、
高速で断続を繰り返すコンタクトブレーカーの接点は、断続と言えば優しく聞こえますが、厳しめに言えば接点同士が高速で衝突しているのです。
接点は金属で出来てはいるのですが、さすがに5千万回も衝突すれば擦り減ります。
擦り減れば接点の形も変わり、接触も悪くなる。
接触が悪くなれば電気抵抗が増え、一次電圧も低くなり、二次電圧の低下の原因となり、それはスパークプラグの火花を弱めることになる。
つまりエンジンのチョーシが悪くなる。
さらに、摩耗が大きくなると、下図のようにコンタクトブレーカーが接続しているときの位置がずれることになります。
となると、カムとの位相が変化することになり、点火タイミングがずれるのです。
当然、さらにエンジンのチョーシが悪くなる。
また、5千万回断続をする度に接点間にはバチッと火花が5千万回飛びます(閉じるときと開くときの両方で飛べば1億回)。
となれば、接点がコゲます。
コゲると接触が悪くなるわけで、電気を流さなきゃならないところで電気が流れなくなるとプラグにも火が飛ばず、エンジンのチョーシが悪くなる。
なので、この頃のクルマは、定期点検時にはコンタクトブレーカー接点の清掃と隙間調整が必須でした。
ここで、前回の続きにつながります。
きちんとメンテナンスしているお客さまなら問題はなくても、乗りっぱなしのお客さまからは不満がでる。
「おたくのクルマ乗ってるんだけどさァ・・・
距離乗ると、必ず調子悪くなるんだよね~ェ。
ドーにかナンないの?」
それを聞いたクライスラーのエンジニアが奮起しました。
コンタクトブレーカーの接点をどげんかせんとイカン。
ようやく今回の主役、トランジスターの登場です。
トランジスターの外観はページ最上段にありますが、電気回路図上では右のようなマークで表されます。
外観写真で3本の足が出ているように、回路図上でも3本の端子が出ています。
その端子を、エミッタ、ベース、コレクタと呼びますが、学生ではないので特に覚えていただかなくても結構であります。
さて、そのトランジスターの働きです。
トランジスターには「スイッチング作用」と「増幅作用」の二つの働きがあるのですが、
チェッカーズの歌ったトランジスターラジオは増幅作用を、
クルマの点火装置ではスイッチング作用を使います。
では、そのスイッチング作用です。
の、前に下図のような電気回路をちょっと考えてみます。。
バッテリー、スイッチ、電球です。
電球には大きな電気が流れます。
となると、当然配線にも、スイッチにも大きな電気が流れます。
そのため、スイッチをON、OFFする度に、スイッチにはバチッ、バチッと火花が飛んでしまいます。
70年代オッサンのデスビの中では、6か月の間に、このバチッバチッが5千万回繰り返されるわけですから、そりゃ接点が焼けるのも止むなしであります。
では、この回路にトランジスターを入れます。
いかがでしょうか。ご理解いただけましたでしょうか?
トランジスターのスイッチング作用とは、小さな電気で大きな電気を制御するモノです。
スイッチには小さな電気しか流れないので、ON、OFFに伴う火花は飛ばず(または火花が非常に小さい)、接点は焼けることがなくなります。
これを点火装置に組み込んでみると・・・
オオオッ!できました。。
見事に大きな電気がコンタクトブレーカーに流れないようになりました。
これで火花バチバチ問題は解決です。
この装置、セミトランジスター式点火装置と呼ばれます。
略してセミトラ。
1972年、クライスラーが発表し、1973年からすべての車種に適応していったそうです。
これにて、コンタクトブレーカー接点焼損の件は無事解決したわけです。
メデタシメデタシ・・・。
しかしッ!
まだ問題は残っています。
そう、摩耗問題です。
セミトラ採用によって、接点の焼損は防げても、相も変わらずコンタクトブレーカーは5千万回パチン、パチンと閉じたり開いたり。
さあ、エンジニア達は、どうやってこの問題を解決したのでしょう?
続きます。
続く
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