ナンでもカンでも電動化 その3

2017/05/27 公開

coolerUnit
その昔・・・と言っても、ちょっとやそっとの昔ではありません。
おそらく昭和40~50年代のハナシなので、ソートーな大昔です。
北海道などではどうなのかは定かではありませんが、基本的に現代の日本において、クルマにエアコンが無いことは考えられません。

ワタクシメが社会に出て、自家用車を購入した昭和60年代では、高級車こそエアコンは標準装備でしたが、大衆車ではオプション扱いでした。
さらにそれ以前、この画像のような「カークーラー」が助手席側ダッシュボードの下にデンと鎮座されておられました。

助手席側ダッシュボードの下とは、言い換えれば助手席乗員の膝のすぐ前ですから、エアバッグやシートベルトプリテンショナーなどの安全装備が満載の現在では、絶対に許されない位置です。
たとえ乗員がフロントガラスを割って外に飛び出してしまうような大事故でなくとも、万が一事故を起こしたら助手席のメカケの膝はグチャグチャになり、経済的に成功したオッサンも一生彼女の面倒を見ることになって経済的に困窮することになるわけです。
ちなみに、このカークーラー、ワタクシメの歳でさえ、かろうじて「見た記憶がある」程度のシロモノですので、ワタクシメよりヤンガーなオッサンはご存じないかもしれません。
この話のミソは、ダッシュボード下のニークラッシャーは「カークーラー」であり、「エアコン」ではないことです。

では、カークーラーやエアコンの車内の空気を冷やす仕組みです。
両者とも原理は同じ熱交換器で、冷媒を介して車室内の熱を外気に移動させることで冷たい空気を作り出しています。
ちなみに過去には冷媒にR12という名のフロンガスが使用されていましたが、人畜無害と思われていたR12がオゾン層を破壊することがわかり、1990年代半ばに使用が禁止されました。
現在使用されているのはR134aです。
R134aはオゾン層を壊しませんが、温室効果はCO2の数百倍あるそうなので大気放出したらダメですヨ。


ちなみに、エバポレーターで空気が冷やされると、空気中の水分が結露して水滴になり、車外へ排出されます。
夏場、エアコンをONもすると、クルマの下にポタポタと垂れる水がコレです。
つまり、エバポレーターは空気を冷やすとともに除湿も行うのです。

この冷却・除湿する仕組みは、カークーラーもエアコンも同様ですが、その先が異なります。
まずはカークーラーから。


上図のように、カークーラーでは、標準装備のヒーターと後付けのクーラーが別々のシステムのため、ヒーターからは暖かい風のみ、クーラーからは冷たい風のみが出てきます。

ヒーターコアとは、エンジンの冷却系統に接続された小さなラジエーターです。
これを車室内に設置してエンジン冷却水を流せば、ヒーターの温風の出来あがりです。

昔の、経済的に成功したオッサンのクルマには、当然カークーラーは付いているわけです。
しかしながら前述のようにクーラーユニットは助手席の膝の前。
古今東西を問わず、経済的に成功したオッサンは脂ぎっていて暑がりです(ヘンケンデスヨ)。
となれば、夏場は暑くてたまらないわけで、はるか遠くの助手席の前にあるクーラーを全開にするわけです。
タマったものではないのが助手席のメカケです。
いくら暑い盛りとは言え、ミニスカートの生ヒザの直前から冷風がビュービューと吹き付けたら・・・
となると、昔の経済的に成功したオッサンのクルマにはひざ掛けが標準装備であったに違いありません。

でも、その自分のものではないひざ掛けを発見した奥方が、どう考えるかは言うまでもありません。
家庭崩壊まっしぐら。
そうなっては困る経済的に成功したオッサンは、販売店に文句をいうワケです。
経済的に成功したオッサンは、自動車メーカーからしても大切なお客さまですから、ナンとかご要望にお応えしなければならない。

という理由で出来たかどうかは存じませんが、エアコンの登場です。


comp
さて、このエアコン・システムのナニが電動化されたかと言えば、コンプレッサーです。
今でも、ほとんどのクルマではエンジンからベルトを介して作動させていますが、エンジンがない電気自動車はもちろん、エンジンが止まっている時間が長いハイブリッド車ではエンジン回転に頼らないコンプレッサーが必要となります。
最初に実用化したのは電装メーカーのサンデンで、1990年代のことだそうです。
この電動コンプレッサー、効率自体はベルト駆動式より劣るそうです。
ベルト駆動式の場合、ベルトの滑りなどによってエンジンの仕事がコンプレッサーを回転させるのに5%程度の損失があり、
一方の電動式は、モーターとインバーター(変換器)の損失が合わせて10パーセント程度あるそうです。
そのうえ、そもそも電動コンプレッサーのモーターを回すための電気をつくるオルタネーターと整流の効率が60~80%くらいとなれば、もう電動式に勝ち目はありません。

ですが、前回、前々回の電動パワステやウォーターポンプと同様に、ベルト駆動式コンプレッサーの能力もエンジン回転数に依存します。

お盆の高速道路は大渋滞。
外気温は40℃に迫ろうかという灼熱地獄。
ノロノロ走行で、エンジン回転数はほぼアイドリング。

この状態でも充分な冷房を効かせるためには、大容量のコンプレッサーが必要となります。

ところが夜になって渋滞が解消してスイスイ走行。
エンジン回転数は2000rpm。
コンプレッサーは高速回転し、十分な量の冷媒を圧送する。

となれば、大容量コンプレッサーは無用の長物となります。
電動コンプレッサーなら、このようにエンジン回転数に頼ることがないので、効率のよいところをウマく使うことができますし、アイドリング時のような低回転で高い冷房能力を求められることがないのでコンプレッサーの小型・軽量化も可能です。

さて、一長一短のベルト式と電動式ですが、今後はどちらが優勢になっていくのでしょうか、楽しみであります。



電動コンプレッサーを採用することで、電気自動車やハイブリッド車の冷房については解決しました。
しかし、もう一つ懸念があります。
エンジンが無い電気自動車では、そもそもエンジン冷却水がありませんから、それを利用するヒーターコアがありません。
ハイブリッド車でも、エンジンが始動しなければエンジン冷却水は冷たいままで、となればヒーターコアで空気を暖めることも出来ません。
大昔の先輩ドライバーたちは冷房無しのクルマで我慢していたので、現在のドライバーはヒーター無しで我慢。
震えながら運転してください・・・・というわけにはいかないので、ナントカしなきゃならない。

途方に暮れたメーカーのエンジニアは、うつろなまなざしで天井を見上げた・・・
AC_home
目に入ったのがコレ→

そうだ! 白くまくんがあるじゃないか!

もちろんビーバーでも霧ヶ峰でも構いませんが、
とにかく家庭用のエアコンはエンジン冷却水がないのに暖房も出来るのです。
そしてさらに言えば、エンジニアが家庭用のエアコンをみて思いついたのがどうかはシリマセン。

では、家庭用のエアコンはどのように温風を作り出しているのでしょうか?
その秘密は、攻守交代です。
上のアニメーションのように、冷房時はエバポレーターで熱を奪い、その熱をコンデンサーで外気に排出していました。
それを逆転させて、コンデンサーで外気の熱を吸収して、エバポレーターで車内に排出すれば暖房になるのです。

「ヒートポンプ」という言葉を聞くようになったのはココ10年くらいでしょうか?
家庭用エアコンはすーっと昔からあるにもかかわらず、しばらく前から何故か「ヒートポンプ式」と呼ばれるようになったように思えます。
ヒートポンプとは文字通り、ヒート(熱)をポンプ(移送)するシステムです。
クルマ用のエアコンも、冷房はヒートポンプ式ですが、暖房はエンジン冷却水の熱を利用するせいか、ヒートポンプ式とは呼ばれないようです。

ここで1点だけ注意をお願いします。
コンデンサーは気体を液体に換える凝縮器の意味ですし、エバポレーターは蒸発させるの意味です。
しかしながら、ヒートポンプ式エアコンの話をし始めると、「コンデンサーで冷媒を蒸発させて・・・」などと意味不明の文章が登場します。
ですので、エバポレーターやコンデンサーは言葉の意味を考えずに、「そういう名前なのだ」と理解して読み進めてください。

では、その作動原理を見てみましょう。


では懸案の除湿暖房です。
日産 リーフでは、PTCヒーターという電熱線のヒーターとの併用です。
ヒートポンプを冷房として使い、除湿冷却された空気を電熱線ヒーターで暖める方法です。

トヨタ プリウスPHVは、ヒートポンプで並列除湿と直列除湿という方法で除湿暖房をしています。
上記のアニメーションの除湿暖房は並列除湿方式で、ボンネット内コンデンサーとエバポレーターの両方で吸熱しているので、おそらく外気温がすごく低い場合はあまり使えないかもしれません。
直列除湿は、資料を読む限り、車室内コンデンサーで常に放熱させ、エバポレーターとボンネット内コンデンサーは冷房作動と暖房作動を一定時間で切り替えているように読めます。(間違っていたらゴメンナサイ)
ですが、チョット自信がないので、確証がえられましたら、また報告いたします。

さて、このヒートポンプ式エアコン。最大の弱点は極端に寒い時に暖房の効きが悪いことです。
おそらく読者オッサン諸兄もご経験があるのではないかと思いますが、真冬の家庭用エアコンはちょっと寒い。
やはり、ガスヒーターとか、灯油ストーブとか、化石燃料を燃やす暖房器具にはかないません。
とは言うものの、プリウスPHVでは、なるべく化石燃料は燃やしたくない。
そこで豊田自動織機のエンジニアが思いついたのがガスインジェクションです。


このガスインジェクションによって、外気温-10℃までヒートポンプで暖房することができるとのこと。

コンプレッサーに気体の冷媒を戻すため遠心分離機ですが、電動モーターなどを使用することなく、冷媒をパイプに通すだけで気体と液体を分離するそうです。
つまり、機械的損失も電力消費もゼロ。

プリウスPHV・・・燃費向上への執念すら感じます。

ちなみに日産 リーフは極寒時にはPTCヒーターを使うのですが、電熱線ですのでメチャメチャ電気を喰います。
ので、「この勝負トヨタの勝ち!」
と言いたいところですが、最悪中の最悪の場合、エンジンを始動して熱源とすることができるプリウスPHVに対して、頼るもののない完全電気自動車のリーフですから、最初から大きな容量の電熱線ヒーターを用意しておいた方がイイのかもしれません。
さらにちなみに、-10℃を下回った場合、プリウスPHVも電熱線に頼るそうです。



読者オッサン諸兄は、その昔、トランクやボディーサイドにステッカーを貼り付けたご記憶はございませんでしょうか?
DOHCとか、TWIN CAMだとか、ターボ、Castrol、MICHELIN、NGK・・・などなどございましたが、
一枚張るたびに、ゼロヨンが0.3秒くらい速くなったような気がしたものです。

さて時代は21世紀。
クールなのはゼロヨンなどではなく、燃費です。
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となれば、トランクやボディーサイドに貼るべきステッカーは「白くまくん」にトドメを刺します。
これで燃費が0.3km/Lくらい良くなるような気がするはずです。
もちろん、ビーバーでも霧ヶ峰でも構いません。

続く


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