ナンでもカンでも電動化 その1

2017/05/09 公開

ちょっとゾッとする話です。
30代後半になると、20年前の話ができるようになります。
30代後半の20年前と言えば高校生から大学生ですからね、世の中のことだってチョットは分かります。
となれば、「あの頃はね~」なんて話もできるわけです。

ところが齢も50に近づくと、20年前にした20年前の話ができるようになります。
どーいうコトかと言えば、コウです。
lotus
20年ほど前、知人の一人にロータス・ヨーロッパをこよなく愛する男がいました。
その彼曰く

「ヨーロッパのドアのガラスはパワーウィンドウなんだよね。これはネ、快適装備ってわけではなく、コーリン チャップマンがちょっとでもクルマを軽くしたくて採用したんだよ。」
彼によると、ドアガラスの開閉は、手動のクルクル回すヤツより、パワーウィンドウの方が軽くできるということらしい。
おそらく、今でいうところの[都市伝説」であったと思います。
普通に考えれば、モーターやスイッチ、配線などを追加しなければならないパワーウィンドウが、手動クルクル方式より軽くなるとは、チョット考えづらい。
「シャシはエンジンより速し」とピュアスポーツカーを設計する、かのコーリン チャップマンが重くなるを承知で快適装備なんか追加するわけがないという、愛好家の願望が作り上げた都市伝説。

そう考えた、若かりしワタクシメは反論を・・・
イエ・・・、賢明なワタクシメは、愛好家に対して、愛好の対象をディすったりしたら引くくらいに怒り始めることを知っておりましたので
「そーなんだ! さすがコーリン チャップマンだね!」
とだけ申し上げておきました。

20年前に知人とした、そこから20年以上も前に作られたクルマのハナシですが、この件を思い出したワタクシメは、自分が過ごしてしまった歳月に戦慄を覚えた次第でありました。



世界初のパワーウィンドウが、いつ、どのクルマに採用されたのかは定かではありませんが、少なくともロータス・ヨーロッパ・シリーズ2が登場した1969年にはすでに存在したことになります。
パワーウィンドウ以前のクルマで、電動のモノってどのくらいあったのでしょうか?
スターターモーター、ワイパーモーター、ヒーターのブロアモーター・・・あとはちょっと思いつきません。

それから50年、今や人間様がヨッコラショと力を入れて動かさなければならない装備はほとんどありません。
それはお値段のお高いクルマほど顕著で、ハンドルとブレーキとアクセル以外で探すのが大変なほどです。
ちょっと考えてみましょう。
  • パワーウィンドウ → 半世紀以上前から電動
  • エアコン(吹き出し口調整のフラップ) → ワイヤーで引っ張っていたマニュアルエアコンからオートエアコンへは30~40年前?
  • パワーシート → 30年前にはあった?
  • ドアミラーの調整、自動折り畳み → 30年前にはあった?
  • ヘッドライトスイッチ → 20年前くらいにはオートライト?
  • ワイパースイッチ → 雨滴感応式も20年前くらいの登場?
  • ルームミラーの防眩切換え → これも20年くらい前?
  • シフトレバー → 2001年にレバーからスイッチに(BMW7シリーズ)
  • サイドブレーキ → これも2001年の7シリーズから電動に
ほ~ら、人間様が力を入れて動かさなきゃならないモノはほとんどありません。
強いて言えば、ドアの開閉とルームミラーの調整くらい。

でも、今回の記事ではこれらは取り上げません。
ココで取り上げるのは、人間様がやっていた仕事を電気仕掛けで済ませてしまった装備ではなく、それまで機械がやっていた仕事を電気に置き換えた機能についてです。

パワステ、エアコンコンプレッサー、ウォーターポンプ、サーモスタット、ターボ・・・いろいろありそうです。



パワーステアリング

クルマにおいて最も大きな電動化と言えば、エンジンを電動モーターに置き換えたハイブリッド車や電気自動車であることは間違いありませんが、それらは別稿で取り上げているためココでは触れません。
となりますと、それら以外で最も大きな電動化はパワーステアリングではないでしょうか。

電動パワーステアリングが登場したのは1988年、部品メーカー・ジェイテクト製のシステムだったそうです。
ただしあまりウマくいかなかったようで、例えば1989年登場の6代目三菱 ミニカに採用されたものの、1993年の7代目、1998年の8代目では油圧式に戻されてしまったとのことです。
この電動パワステは、現在の電動パワステとは異なるクラッチ式であったそうです。

現在と同様の仕組みとなった電動パワステは、1990年のNSXに採用されました。
その後、1997年に締結された京都議定書の影響で、「とにかく燃費をよくしなきゃ!」の掛け声のもと、小型車を中心に採用例が広がり、現在では殆どの乗用車で使われるようになりました。


電動パワステのハナシの前に、油圧式パワステのハナシをします。でもその前に、パワステではないステアリング装置の原理を見てください。


簡単ですね。
ステアリングホイールにつながったピニオンとラックで回転運動を左右方向の直線運運動に換えてナックル(ホイール)に伝えます。
このタイプはラック アンド ピニオンと呼ばれ、現在ではほぼすべての乗用車に採用されています。
この他にボールナット式というのもあり、トラックなどで使われています。
ボールナット式にはいろいろメリットもあるそうで、その昔のお値段のお高い乗用車には使われていて、メルセデスベンツは最後まで頑固に使い続けていましたが、今はラック アンド ピニオン式です。

続いて油圧式パワステの構造です。


油圧式パワステの作動原理です。スプールバルブの断面を示しています。


お解りいただけましたでしょうか?
なかなかヨク考えられたシステムです。

さてこの油圧式パワステ、大きな弱点があります。
その昔にノンパワステのクルマを運転したことがあるオッサンならご存知の通り、ハンドルは車庫入れのときが一番重い。
で、高速道路に行けばそんなに重くない。
となれば、パワステでは車速が低いときには大きなアシスト力を発生する必要があり、車速が高くなれば小さなアシスト力で済むわけです。
そのアシスト力の源となる油圧ポンプをエンジンで回しているのです。
つまり、エンジン回転数の低いときに十分な油圧を発生するオイルポンプを取り付ければ、エンジン回転数が上がって車速も高くなったときにはさらに高い油圧を発生し、ハンドルはユルユル、カルカルになってしまいます。
高速走行時のハンドルの重さを確保するために、せっかくオイルポンプが作った油圧を捨てなければなりません。
それが車速感応式パワーステアリングやエンジン回転数感応式パワーステアリングでした。

せっかく作った油圧を捨てる・・・・


一に燃費、ニに燃費、三四がなくて五に燃費・・・が身上の現代のエンジニアが効いたら卒倒しそうなシステムですよね(笑

もう一つの油圧式パワステには弱点があります。
まっすぐ走っているとき、つまりステアリングのアシスト力が不要なときでもオイルポンプはせっせ、せっせと油圧を作り続け、そして捨てているのです。


とある夜このコトです。
時計の針は23時。
奥方がせっせと用意した手料理はもうすっかり冷めています。

ただいま~

後ろめたさのあるオッサンの声は、子猫の鳴き声のようです。
メカケと夢のように楽しい時間を過ごした後には、針のムシロの時間がやってくるのです。
「お帰りなさい、遅かったのね。」

「あ、あァ・・・取引先でちょっとトラブルがあってね・・・

ウソっ!
奥方の目の奥が光ります。
「お腹ヘッタでしょう。いま、温めますね。」
それでも奥方は笑顔でキッチンに向かいます。

「あ、イヤ・・・その・・・、事務所のみんなで牛丼食ったから・・・」

奥方はギュッと唇をかみしめ、一生懸命に作った夕食を三角コーナーに叩きつけるように投げ捨てます。

嗚呼、かわいそうな奥方・・・・

かわいそうなオイルポンプ・・・・

と、自動車メーカーや部品メーカーのエンジニアが思ったかどうかは知りませんが、とにかく燃費を良くするためには、この無駄を何とかしなきゃならない。
で、思いついたのが電動パワーステアリング。
パワステポンプで作り出した油圧でピストンを押す代わりに、電動モーターで直接ステアリングシャフトを回転させます。
eps1
イヤ~、私ごとで恐縮すが、電子制御になると作図にかかる手間が1/100くらいになります(笑
作図が1/100ですから説明も簡単です。
ステアリングセンサーが、ドライバーがステアリングホイールを操作する回転数、回転速度、回転トルク等を検知し、コントロールユニットが必要なアシスト量を演算してモーターを回転させる。
以上です。


では、寂しいので、電動パワステの種類を紹介します。

< コラムタイプ >
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まずはコラムタイプです。
ステアリングホイールの近く、つまり車内にモーターを配置した構造です。
エンジンルームが狭くてモーターを置く空間が無い小型車に使われます。
また、車内ですからモーターを防水にする必要もありません。


< ピニオンタイプ >
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続いてピニオンタイプです。
ピニオンの近くにモーターが配置されます。
お値段のお高いセダンやSUVでは、重量が大きくフロントタイヤにかかる荷重も大きくなります。
さらにお値段相応のぶっ太いタイヤを履いているとなると、ハンドルを回す力も大きくなります。
となった場合、コラムタイプではモーターからピニオンまでのシャフトやシャフトを支持する部品の剛性を上げなければなりません。
重くもなりますし、お高いお値段がさらにお高くなってします。
幸いエンジンルームには余裕があるのでピニオン近くにモーターを置いてみた、というわけです。


< デュアルピニオンタイプ >
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文字通り、2個のピニオンのあるタイプです。
モーターを置く場所が自由になります。
設置場所の制約が小さいので、大型・高出力のモーターを使うことができます。

< ラックダイレクトタイプ >
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ラックと同軸に配置したモーターでラックを直接駆動するタイプです。
モーターの回転をラックの直線運動に変換するのにボールナットを使うので、スムーズに操作できます。



前述しましたが、電動パワステが普及した理由は燃費。
ハンドルを切っていないときや、高速走行時に不要な油圧を作らずに済ますことで、オイルポンプによるロスをなくそうという算段です。
しかし、ドーモ色々難しいらしいようで、雑誌の試乗記等でも、操舵感の不自然さだとか素早く切替したときの追従性だとかに不満を感じるモデルもあるようです。

とは言っても、大事なのは燃費、CO2排出量なのです。
そう、燃費です。燃費なのですが・・・ 少々イジワルに言えば、燃費測定のテストをするときの燃費。

TDI とある欧州メーカーがインチキをしていたのは記憶に新しいところです。
ハンドルを真っ直ぐにした状態で走り続けると、
「あっ、こりゃローラー上で燃費テストをしてるに違いない!」
とコンピューターが判断し、燃料制御を燃費測定モードに切り替えてしまうアレです。(詳しくはコチラ
電動パワステがインチキだとは申しません。
しかしながら、ハンドルを全く切らない燃費測定モードにおいて、その優位性が最も発揮されることは間違いありません。
そして我々が一般的にクルマを使う場合、ハンドルを全く切らない状況はそう多くありません。
たとえ直線道路でも、路面が水平でなければ、まっすぐ走るためにハンドルはどちらかに力を加えられていますからネ!

ところが近い将来、実際に道路を走行するクルマで排気ガス測定テストを行うことが検討されています。
となれば燃費の基準も実走行テストになってくる。
そう、電動パワステの一番大きな利点がなくなってします・・・

とある自動車雑誌のインタビュー記事で目にしたのですが、
あるエンジニアによれば、実走行テストが始まれば、パワステは油圧に戻る可能性もある、と。
ただし、オイルポンプはエンジン駆動ではなく、電動モーター駆動。
新しい技術ではなく、すでに採用例のあるシステムです。
無駄であろうと、常に油圧を作り続けるエンジン駆動式オイルポンプとは異なり、電動モーター駆動式オイルポンプなら必要なときに必要なだけ油圧を作り出すことができます。
ローラー上のテストでは敵わなくても、実走行テストなら十分戦えます。
そして自然な操舵感。

ををを!
追い詰められる一方であった機械制御ですが、ついに電子制御に一矢報いることができるのか!

でも、ダメですね・・・
短期間に限ればそういうこともあるかもしれませんが、長い目で見れば自動運転の方向ですから、電子制御しやすい電動パワステがその勢いを失うことはないでしょう。 そう、もはや

ナンでもカンでも電動化!

なのです。

続く


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