ナンでもカンでも電動化 その4

2017/06/06 公開

turbo
ワタクシメ、外国語はほとほと苦手ですが、スペイン語やドイツ語、フランス語などの名詞には男性名詞と女性名詞の区分があることくらいは知っております。
女性を連想させるものが女性名詞で、男性を連想させれば男性名詞・・・という名詞ももあれば、全然理解不能な場合もあるそうです。
ちなみに、クルマは女性名詞だそうで、これはナントナク納得できます。
で、ワタクシメ、想像しますにターボは絶対に男性名詞です。
ググってみました。
Googleの翻訳サイトで「a turbo」と入力するとフランス語は・・・

Un turbo

やった!
やりました!
フランス人もターボは男だと思っているのです!
(unは男性名詞の定冠詞)

だってそうではありませんか!
考えてみてください。
読者オッサン諸兄がまだ若かった頃、 ダイハツ ミラ と聞いたら可愛らしい女の子が乗っていると思いませんでしたか?
ところが、ミラ ターボときたら、ちょっとヤンキー色のかかったおニーチャンを想像します。

スカイライン RS ターボ ときたら、絶対に女性のクルマとは思えません。

シルビア Jsときたら、もしかしたらワンレンのおネーチャンが・・・と妄想できますが、Ksときたら絶対に走り屋のおニーチャンです。

そのくらい、ターボは男・・・イヤ、であったのです!

ご時世ですから、こんなことを主張したらジェンダーフリーな方々から差別主義者のレッテルを貼られそうですが、実際当時はそうであったし、それにこのサイトをご覧いただいている方の97%はオッサンだと思うので書いちゃいました。

さて、そのターボ。
これまでターボラグと熱とノッキングとの闘いでした。イエ、闘いはまだ続いています。
そのうち、熱とノッキングは本題から逸れるので、別記事に譲ります(そのうちに掲載するつもりです)。
ここではターボラグです。

まずはターボの原理を。


もうメカ好きの読者オッサン諸兄には釈迦に説法ですね。
エンジンの排気ガスで羽根車(タービンホイール)を回し、それが同軸上にある吸気側の羽根車(コンプレッサーホイール)を回して空気を圧送。
その際に空気の温度が上がって密度が下がってしまうためにインタークーラーで冷却。

上図はエンジン回転数が十分に高まっている状態です。
エンジン回転数が低いと、十分な排気ガスがタービンに供給されず、タービンホイールの回転数が上がりません。
当然、同軸上のコンプレッサーホイールの回転数も低いままで、エンジンに供給される空気量(ブースト圧)は一向に増えません。
つまり、エンジン回転数が低いときには、ターボが効かない。
この期間がターボラグです。

ターボラグの間はターボが仕事をしないだけではなく、吸気される空気にとってコンプレッサーホイールは流れの邪魔をする抵抗に過ぎず、排気ガスにとってもタービンブレードはただ邪魔だけです。
もちろん、インタークーラーだって吸気の抵抗になります。
さらに、今回は触れませんが、ノッキングを防ぐため、一般的にターボエンジンの圧縮比は自然吸気エンジンより圧縮比が低い。

こういった理由によって、同排気量のエンジンであれば、ターボが効いていない間のターボエンジンは、自然吸気エンジンよりダメダメなのです。
この極端な例が、昔のドッカンターボです。
ブースト圧が上がらないエンジン低回転では、エンジンはスカスカ。
ところがターボが効き始めるとドッカーンとトルクが出て、ドライバーである当時は若かったオッサンの頭部はヘッドレストに押し付けられ、
不幸にもタイヤのグリップ力がギリギリのところでコーナーリングしている時であれば、クルマはあさっての方向に飛んでいくのです。

しかも一般的にはターボエンジンの最大許容回転数は低いので、このドッカンは刹那的です。
この短時間のドッカンをものの見事にコントロールする。
これこそが、ターボが「漢」である理由に違いないのです。


お客さまの大部分が刹那的、かつ暴力的加速力に魅力を感じていただける「漢」であればよいのですが、そうもいきません。
ですので、自動車メーカーとしてはナントカしてターボラグの小さい、スムーズに加速するクルマにしなければならなかったのです。

それでは、ターボラグ撲滅の、言い換えると、如何に低回転で羽根車を回すかの技術進歩の歴史を、順を追ってみていきましょう。



ウエストゲート

ウエストゲートは西門ではなく、「無駄にする」の意の「waste」の方です。
ナニを無駄にするるかと言えば、排気ガスエネルギーです。

第二時代戦後期に米陸軍で使用されたリパブリック P-47 サンダーボルトに搭載された、プラット アンド ホイットニー社製R-2800 ダブルワスプ エンジンにはすでにウエストゲートが採用されていたようなので、おそらく自動車用ターボチャージャーには最初から付いていたのかと思います。

エンジン最高回転数時の排気ガス圧に合わせてでっかいターボを付ければ、最高出力は上がるでしょうが、低~中回転ではスカスカエンジンです。
そのため小さなターボを付けるのですが、そうなったらそうなったで、今度は高回転時に排気ガス圧が高くなり過ぎ、羽根車は過回転となって壊れてしまいます。

そこで登場するのがウエストゲートで、作動は以下の通りです。


文字通り、エンジン高回転時は排気ガスの一部を無駄に捨ててタービンの過回転を防ぎます。
高回転での過回転を防ぎ、中回転でターボが効くようにはなりますが、低回転時のスカスカにはさほどの効果がありません。

ツインターボ

ターボの大きさを高回転に合わせると低回転時には大きすぎ、低回転に合わせると高回転時には小さすぎる。
で、思いついたのが、小さなターボを2個つけちゃう。
6気筒エンジンの場合ですと、3気筒ごとに1個の小さなターボをくっつけ、低回転時からターボが効くように狙った仕組みです。


toyota
日本最初のツインターボエンジンは、トヨタの1G-GTEUエンジで、ソアラ(Z20型)とかマークⅡ兄弟(70系)などに搭載されました。
バブル花盛りのことです。
懐かしいですね。
覚えていますか? グランデとかスーパールーセントとかアバンテとか・・・
現在では、6気筒以上のガソリンターボエンジンはこのツインターボとなっているようです。

シーケンシャルターボ

まずは直列式シーケンシャルターボです。


959
最初にこの方式を採用したのが、1986年にデビューしたポルシェ 959。
何から何まで衝撃の最先端技術を採用した959でしたが、その衝撃の一つが直列式のシーケンシャル ツインターボでした。
日本車でも、ユーノス コスモの13B-REW型エンジンとか、2代目スバル レガシィのEJ20H型エンジンなどに採用されました。
現在では、ガソリンエンジンへの採用例は少ないようで、主にディーゼルエンジンで使われています。


続いて並列式シーケンシャルターボです。


こちらはトヨタ スープラ(80型)の2JZ‐GTEエンジンなどで採用されました。

ツインスクロールターボ

ツインスクロールターボは、タービンに流れ込む排ガス流路を2本用意し、低回転時には1本、高回転時には2本の流路を使います。
低回転時は排ガス流量が少ないため、流路の面積が狭くなるよう1本の流路とし、排気ガスの流速を速め、タービン回転が早く上昇するようにします。
高回転時には、排ガス流量が増えるため、流路を2本使います。


日本車では、2代目 マツダ サバンナ RX-7(FC型)の13B-Tエンジンに最初に採用されたようです。
現在では、このタイプのツインスクロールターボはほとんど見かけないようです。


twinScroll_2
ツインスクロールターボには、もう一つ種類があります。
こちらのタイプは、排気干渉を抑えるための仕組みです。
1-3-4-2の点火順序の4気筒エンジンで考えてみると、1番シリンダーの排ガスがタービンに流れ込んでいるときに3番シリンダーの排ガスまでやってきて、お互いにその流れを邪魔しようとする。
そこで、1番と4番、3番と2番のマニホールドをまとめて、排気ガスが流れ込む間隔を大きくすることで排気ガスが干渉することを防ぐ目的で使われています。
現代のエンジンでツインスクロールターボといえばコチラになりますが、コチラはターボの効率を上げるためで、ターボラグ撲滅を主目的とはしていません。

可変ジオメトリーターボ

自動車の機能は、固定式が2段式に変わると、大抵の場合、多段化または無段階化が始まります。
ATも最初は2速であったものが、今や10速、または無段階のCVT。
エンジンのバルブタイミングを変化させる機能(VVT:トヨタ、NVCS:日産)も最初は2段階でしたが、今では無段階。

ターボも例外ではありません。
ツインスクロールターボは2段階切替でしたが、すぐに無段階化が始まりました。
可変ジオメトリーターボです。
可変ノズルターボ、可変翼ターボなどメーカーによって呼称が様々ですが、ここでは可変ジオメトリーターボ(以下VGT)とします。

1985年、日産 セドリック / グロリア(Y30型)のVG20ETエンジンにジェットターボの名称で搭載されました。
このジェットターボは、1枚の絞り弁(ベーン)でタービンハウジング内の流路を絞ったり広げたりすることで排気ガス流速を調整することができます。
続く1988年、初代ホンダ レジェンド(KA型)のC20Aエンジンには、ベーンを4枚にしたウイングターボが登場。
ジェットターボとかウイングターボとか、この時代はネーミングが中二病まるだしです(涙

3年で4倍に増えたベーンの数ですが、現在ではたくさんの小さなベーンを備えています。
作動は以下の通り。 左が日産のジェットターボ、右が現在一般的なVGTです。


プラス 機械式スーパーチャージャー

過給器にはターボと並んで機械式スーパーチャージャーがあることは、読者オッサン諸兄もご存じの通りです。
ターボは排気ガス圧力を利用して吸気をエンジンに押し込んでいるのに対し、機械式スーパーチャージャーはクランクシャフトからベルトを介して圧縮機を回してエンジンに空気を押し込みます。

機械式スーパーチャージャーのメリットは、エンジンで回すので排気ガス圧力が低くても十分なブースト圧を作り出すことができるコト。
デメリットは、エンジンがエンジン回転数が高くなると、圧縮機の抵抗が大きくなりすぎてエンジン出力を無駄に食ってしまうコト。
まとめると、エンジン低回転時はOKで、高回転時はNG。

ヲヲヲ! エンジン低回転時にはNGで、高回転時にはOKのターボと真逆ではありませんか!
コリャ、手を取り合い助け合うしかない!
と、出来上がったのが1989年の日産 マーチ スーパーターボ(嗚呼、中二病!)のMA09ERTエンジン。
2008年にもフォルクスワーゲン ゴルフⅥには1.4Lにターボと機械式スーパーチャージャーが併用されました。
最近では、ボルボ X90に搭載されたB420エンジンに採用されています。
このエンジン、2.0Lのくせに最高出力320馬力!
0.93LのMA09ERTが110馬力(しかもこの当時はたぶんグロス表示)ですから、30年の時の流れを感じます。


高回転時になると、機械式スーパーチャージャーの仕事は、

吸気を圧縮することで得られる出力増加 < スーパーチャージャーで圧縮するために使うエンジン出力

となってしまうため、適当な回転数でプーリーの電磁クラッチを切ったり、吸気をバイパスさせたりして作動を止めてしまいます。




これまでターボラグを減らす方法を延々と書いてきましたが、では究極のターボとはどのようなものでしょう?

x5
ワタクシメ思いますに、BMW X5 M50dに搭載されたN57Sエンジン(ディーゼル)にトドメを刺します。
最近のディーゼルエンジンの傾向として、安価なクルマにはVGTを1個。
ちょっとお値段がアレなクルマになると、直列のシーケンシャルターボとなるようです。
ところあこのN57Sエンジン、ターボが3個ついています。
小型のVGTターボ2個を並列に、さらにそのうちの1個に大型ターボを直列接続しています。
低回転時には1個目のVGT、中回転時には直列ターボ、高回転時には残りのVGTを作動させます。
ワタクシメなど、ターボが1個ついているだけでもありがたいと思うのに、イヤハヤ・・・
ちなみにBMW X5 M50d、この記事の公開日時点では日本国内では販売していないようなので、英国のBMWサイトを覗いてきました。
価格は£68,620、およそ9,812,000円。
ターボ3個で1千万・・・

ターボだろうがナンだろうが、金さえ出せば大抵のモノは手に入るんだなァ~

経済的に成功したオッサンの高笑いが聞こえます。



長~い、長~い前置きがようやく終わりました。
ナンとかターボラグを減らそうと、あの手この手を尽くしてついにたどり着いたのが電動ターボです。

正直に申し上げます。
elecTourbo
これまで延々とターボの改良の話をしてきて、最後にたどり着いたのが電動ターボ、というオチならスムースな流れなのですが、 「排気ガスを利用した過給器」がターボチャージャーの定義であるなら、電動ターボはターボではありません。
しかし、見た目の形で言えば、実にターボっぽい。

禅問答かよッ!

と怒らないでください。
スマホだって、電話より小型モバイルコンピューターとして使う方が圧倒的に多いのに、未だにスマートフォン(賢い電話)って呼ぶじゃないですか。
ですので、電動ターボは正確には電動スーパーチャージャーですが、このサイトでは見た目を優先して電動ターボで突破させていただきます。

最初に採用したのは2016年のアウディ Q7のV6 TDIエンジン(ディーゼル)。
使い方は機械式スーパーチャージャーと同様です。


このシステム、ちょっと気になるトコがあります。
電動ターボがインタークーラー下流に配置されています。
電動ターボでは過給した空気の温度が問題にならない程度にしかブースト圧が上昇しないのか、
あるいは、高回転時に本物ターボで過給して熱くなった空気がインタークーラーで冷やされる前に電動ターボに当たると熱的に問題が発生するのか・・・
電動ターボをインタークーラー上流に置いて、過給した空気を冷やした方が・・・と考えるのはシロウトの浅知恵でしょうか・・・?

この電動ターボ、この5月にはメルセデスベンツ Sクラスにも採用されました。
こちらは3.0Lのガソリンエンジン用です。

そしてもう一つ、大事なことがあります。
自慢いたしますと、この電動ターボ、ワタクシメは「よろしくメガドック」を愛読していた中学生のころから考案しておりました。

あの世界的企業のアウディやメルセデスベンツに先駆けること35年です。

ただし問題は、考案しただけ・・・と言うことでした。

しかし、田舎の中学生が思いつくようなことが、ドーして35年も実用化されなかったのでしょうか?

賢明な読者オッサン諸兄なら、上のアニメーションをご覧いただいた時点でお気づきかと思います。
そう、48Vバッテリーです。

どうやら電動ターボ、12Vでは動かないようなのです。
そこで既存の電装系に48V系を加えて、その高電圧で電動ターボを高速回転させる。
こんなイメージかと思います↓
48V

この48V電装システム、ヴァレオやボッシュ、ボルグワーナーなど海外の部品メーカーが自動車メーカーに売り込みをかけているらしいのですが、
使い道としてはターボだけではなく、マイルドハイブリッドや電動パワステなどまで考えているようです。

さて電動ターボに48V電装システム、今後流行るでしょうか?
そう考えたとき、ホンダの創始者本田宗一郎さんの言葉がよぎりました。

ホンダ 1300というクルマを開発している時のコトだそうです。
このホンダ 1300、1969年発売開始で空冷エンジン搭載でした。
水冷エンジンでいくか、空冷エンジンでいくか、開発陣と空冷エンジン好きの宗一郎さんの間で激しい対立があったそうです。
結果的に、宗一郎さんの一言で空冷エンジンが採用となり、そのせいかどうか商業的には大失敗。
ワタクシメも実車を見た記憶はありません。
で、その一言とは

エンジンを冷やした水を空気で冷やすなら、はじめからエンジンを空気で冷やせ!

なるほど、理がありそうにも聞こえますが、現在自動車用空冷エンジンが存在しないことを考えると、さすがの宗一郎さんもこの点については間違っていたことになります。

話をもどして電動ターボ + 48V電装です。
タブン、宗一郎さんならこう言います。

モーターでターボを回して、その過給圧でクルマを加速させるなら、はじめからモーターでクルマを加速させろ!




plant
読者オッサン諸兄の中に「工場萌え」の方はどのくらいいらっしゃいますでしょうか。
ワタクシメは、ツアーに参加するほど「萌え」ではありません。
しかし、縦横に無数に走るパイピング、天高くそびえ立つ煙突、ダクト、階段、支柱、タンク、バルブ・・・それら構造物が複雑に絡みあう姿を見ると畏敬の念を感じずにはいられません。
それは戦艦にも相通じます。
ship1
こちらは旧帝国海軍の戦艦 大和。
巨大な主砲、無数の高射砲群、武骨な艦橋、マストに煙突、偵察機用のカタパルトに回収用のクレーン・・・
どう見ても工場萌え度MAXです。
ship2
一方、コチラは米海軍の最新鋭ミサイル駆逐艦 スムウォルト。
・・・どうでしょう、ゼンゼン萌えません。
Ingenium
話をクルマに戻して、こちらはジャガー インジウム エンジン。
クランクシャフト、オルタネーター、パワステポンプ、エアコンコンプレッサー、ウォーターポンプのプーリーに加え、ベルトの張りを調整するテンショナープーリーやアイドラプーリーの数々。
もう萌え萌えです。
HR12
そして日産 ノート e-Power搭載のHR12DEエンジン。
パワステも、ウォーターポンプも、エアコンコンプレッサーも電動化され、しかもハイブリッドですから発電機はミッション側にあります。
おかげでエンジン前面はスッキリ。
1本のベルトもありません。
N57S
さらにもう一枚。
BMW N57Sエンジンのトリプルターボです。
もう、ナニがナンだかわからないくらい複雑にパイピングが絡み合っています。
elecTourbo
そしてボルグワーナーの電動ターボことeBooster。
見た目だけで言えば、最新鋭のミサイル駆逐艦も、エンジンも、ターボも全然工場萌え的ではありません。

もうクルマ趣味はやめて、工場萌えマニアになろうかな~


(新しい電動パーツがが登場するまで、ひとまず)



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