日産 ダイレクト アダプティブ ステアリング

- 第2回 スロットル バイ ワイヤ -

2014/07/20 公開

ようやくクルマの話になります。
ヒコーキの操縦をコンピューターにやらせるのがフライ バイ ワイヤですから、クルマの場合はドライブ バイ ワイヤとなります。
世界初のフライ バイ ワイヤ機のF-16は、スロットル、エルロン、エレベーター、ラダーをいっぺんにバイ ワイヤ化しましたが、クルマの場合はバラバラでした。
最初にバイ ワイヤ化されたのがスロットル(アクセル)です。スロットル バイ ワイヤと呼ばれます。
次がブレーキ。ブレーキ バイ ワイヤです。
そしてようやく、本稿での本題であるステア バイ ワイヤを日産が実用化したわけです。

しかし、話はまだ最初のスロットル バイ ワイヤです。
もう少しガマンしてお付き合いください。



さて、バイ ワイヤ化される前のスロットルについて復習してみましょう。
オッサンの皆さんがご存知のように、昔のクルマのスロットルバルブとアクセルペダルは針金やロッドで接続されていました。(スロットルワイヤーとかスロットルケーブルと呼ばれていましたが、ワイヤーとかケーブルは電線の意味と混同するので、ココでは針金とします)

昔は単純でした。
アクセルを踏む --> 針金が引っ張られる --> スロットルバルブ開く
これだけのことですので、なんの難しいことはありません。

話が少々ズレますが、一時期、非線形スロットルリンクなるものが流行しました。
アクセルペダルの踏み込み量と、スロットルバルブの開度が一致していないモノです。
エンジン回転が低い時には、つまりアクセルペダルの踏み込み量が小さい時は、アクセルペダルの踏み込み量に対してスロットルバルブが大きく開くのです。
どういうことかと申しますと、
たとえば信号からの発進時、アクセルペダルを30%しか踏み込まないのに、スロットルバルブは50%開く、というような設定になっているのです。
こうすることで、ドライバーは

「アクセルをちょっとしか踏んでいないのに、けっこうイイ加速するね。ウーン、このエンジンは力がある」

と錯覚します。
当然、高速道路で追い抜きしているとき、もう一段加速したいとアクセルを踏み込んでも、エンジンにはいくらも余力が残っておらず、期待した加速が得られないことになります。
そう。これはもう、一種の

イカサマです!

おそらく、エンジンの大きさの割に車体の大きなミニバンが流行ったことと無縁ではないのではないかと推測しますが、大切な家族を乗せるミニバンだからこそ、こういうことは止めて欲しかった。
おかげで、後席でようやく眠りについた子供を気遣い、オトーサンは発進の度にアクセルワークに神経を尖らせなければならないことになってしまったのです。



閑話休題

さて、話をスロットル バイ ワイヤに戻します。

スロットル バイ ワイヤは、アクセルの踏み込み量をセンサーで感知し、その信号に基づいてコントロールユニットがスロットルバルブアクチュエーターを操作するのですが、下の図を見てください。

センサーから「アクセルが30%踏まれた」と信号が送られると、コントロールユニットがアクチュエーターに対して「スロットルバルブを30%開け」と命令する。
センサーから「アクセルが80%踏まれた」と信号が送られると、コントロールユニットがアクチュエーターに対して「スロットルバルブを80%開け」と命令する。

これもアクセルペダルの踏み込み量を電気信号に変えてスロットルバルブを制御しているのですから、スロットル バイ ワイヤと言えないこともありません。
しかしながら、現在のスロットル バイ ワイヤの定義には当てはまりません。
第二次大戦時のヒコーキでも、補助翼の一部をこのような制御を行っていた機体がありました。
じゃあ、スロットル バイ ワイヤってナニよ?

心の準備をしてください。

洋梨

という果物をご存知でしょうか?
おいしいです。食べるぶんには大好きです、ワタクシ。
しかし、この言葉を耳にするたび、家庭でも、職場でも、暗澹たる気持ちになってしまうのです。
ワタクシメにはこう聴こえるのです。
オマエはもう

用なし

だと。
ああ、なんたる無慈悲な言葉・・・

決して本意ではないのですが、これからワタクシメは、皆さんにそう言わなければならないのです。 しかし怒らないでください。
言っているのはワタクシメではなく、ボシュやデンソー、あるいはトヨタ、日産、ホンダ、スバル、マツダなのです。ベンツ、BMW、アウディなのです。

上の図のスタートボタンをクリックして下さい

お解りになったでしょうか?
昔のクルマのアクセルペダルは、エンジンの回転数をコントロールしていました。
ところがスロットル バイ ワイヤでは、アクセルペダルはエンジン回転数をコントロールする装置ではなく、コントロールユニットに、どれだけ加速したいのかを伝える装置に成り下がったのです。

これは何を意味するのか?
アクセルとエンジン回転数の関係は、エンジン負荷によって変化する、つまり2速だとか5速だとかのギア位置や上り坂とか下り坂によって、アクセルを踏んだ量とエンジン回転の上昇は異なります。
当然、オッサンはそれを見越して、望む加速を得るべくアクセルペダル踏み込み量を調整していたのです。

アナタがそんなことをする必要はないわ。ぜ~んぶ、アタシがしてあ・げ・る

スロットル バイ ワイヤは、妖しげにそうオッサンにささやくのです。


続く

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