ミラーサイクル

- 第4回 モッタイナイのココロ -

2014/10/26 公開

長々とメンドクサイ話にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
ようやく、ミラー・サイクルです。

さてこのミラー・サイクル、一言でいえば“モッタイナイ”のココロです。
これまで捨てていたモノを利用しましょう、ってのが基本的な考え方です。
では、なにを捨てていたのか?
圧縮比10:1のエンジンの場合を考えてみます。
エンジンに吸い込まれた空気とガソリンは、1/10の容積まで押しつぶされます。
そこでスパークプラグに点火。
ドカーンと爆発して、また10倍に膨れ上がります。


やがてピストンが下死点になると、当たり前ですが、ピストンは運動の向きを変えて上昇を始めます。
右の図がその様子を表しています。
でも、ちょっと待ってください。
実はこの時、燃焼ガスにはまだ余力が残っているのです。
どういうことかと申しますと、クランクシャフトさえなければ、燃焼ガスはまだピストンを押し下げることが出来るのです。
にもかかわらず、排気バルブが開き、ピストンがせり上がってくると、まだ働けるはずの燃焼ガスが捨てられてしますのです。


右の図では邪魔なクランクシャフトを取ってしまいました。
ピストンは、燃焼ガスのエネルギーがなくなるまで下がることが出来ます。
図内にありますように、モッタイナイのです。

まだ働けるのに捨てられる・・・
オッサンの皆さんは、定年退職のその日を想像したことがございますでしょうか。
さっぱりした。清々した。うれしくてスキップが出ちゃう・・・
と思うのでしょうか?
それとも、

あーーーッ! まだ働けるのにィィィィ!

と叫ぶのでしょうか?

通常の4サイクルエンジン(オットー・サイクル)では、まだ働ける燃焼ガスは泣きも叫びもせずに捨てられているのです。
まあ、マフラーを外したときのあの爆音が、燃焼ガスの雄叫びと言えないこともないかもしれませんが・・・



ミラーサイクルの話の前、最後にもう一つだけ知っていただきたいことがあります。
圧縮比と膨張比です。
engine5 上の図は、フツーの4サイクルエンジン。

圧縮行程で10の容積を1に押しつぶせば圧縮比は10:1です。 圧縮された空気とガソリンが燃焼して容積を増やしますが、この増える割合を膨張比といいます。
フツーの4サイクルエンジンは、吸気時の下死点も燃焼時の下死点もピストンの位置は同じなので、圧縮比が10:1なら膨張比も10:1になります。

今度の図は、クランクシャフトがなかったと仮定した場合です。
engine4 燃焼ガスは心行くまで働いてピストンを押し下げます。
この場合、圧縮比と膨張比は等しくありません。
圧縮比 < 膨張比
となります。

さあ、そこでアトキンソンさんは考えた。
ナンとか圧縮比 < 膨張比となるようなエンジンを作れないモノかと・・・
で、特殊な仕組みを作ってみたものの、複雑すぎてとてもクルマ用の高回転エンジンには使えない・・・

そこでミラーさんが登場
圧縮比 < 膨張比にしたいのは分かった
で、膨張比を大きくできないのも分かった
なら、膨張比をそのままで圧縮比を小さくすりゃイイじゃね?
と言う流れで、ミラーサイクルが誕生しました。

圧縮比を小さくするって、どういうことよ?

下の図を見てください。

お解りいただけましたでしょうか?
吸気バルブを遅く閉じることで、一度吸い込んだ空気を吐き出してしまえば、実際に圧縮される空気は減り、圧縮比が下がるというわけです。
燃焼時のバルブの動きはフツーの4サイクルと変わりませんから、膨張比はそのまま。
という訳で、圧縮比 < 膨張比が成り立つわけです。

チョッと待てよッ!

それじゃ、エンジンの排気量が小さくなるも同然じゃないか!

と気づかれたオッサン、サスガです。

2000cc、4気筒エンジンで考えてみましょう。 1シリンダー当たりの容積は500ccです。 ミラーサイクルでは、せっかく500ccの空気を吸い込んでも、100cc吐き出してしまったら、このエンジンは400cc×4で1600ccの排気量しか持っていないことになります。

そう、このままでは、

ミラーサイクルはゼンゼン力が出ないのです。

で、ミラーさんは考えた。

そうだ、スーパーチャージャーだ!

スーパーチャージャーで空気を押し込めば、実排気量が減った分の空気を詰め込める。

イヤ~素晴らしい。
複雑な仕組みを用いることなく燃焼ガスのエネルギーを無駄なく使い、実排気量が減ることによる力不足も解決。 で、実際のところ、どうなのでしょうか? このミラーサイクルエンジンとやらは・・・

続く

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