最新ガソリンエンジン
- 第10回 燃料系 その2 -
2016/05/13 公開
「最近、アイドル回転が安定しなくてさァ~」
と言う台詞を、昔はよく耳にしました、
もちろん、「アイドル」とはフリフリしたスカートをはいて歌って踊る女の子たちのことではありません。
ヲタクな方々が熱狂するアチラは「idol: 偶像」が語源で、オッサンたちがノスタルジーを感じるコチラは「idle: 無駄な」が語源です。
ちなみにこの言葉を発した、当時は若かったオッサンのうち、クルマを通勤などに使っているオッサンの「安定しなくてさァ~」は困った表情で、趣味の、とくにチューニングされているクルマに乗ってるオッサンの「安定しなくてさァ~」は、困った中にも誇らしげな表情であったものです。
もうウン十年前、就職したてのワタクシメに、父が自分のファミリアを無償で譲ってくれました。赤ではありませんでしたが、「赤いファミリア」のアレです。
大分くたびれたファミリアではありましたが、親とは有り難いものです。
しかし実のところ、父はそれを新車に変える理由として母を説得したらしい・・・と分かったのはそれから数十年後の話です。
で、その赤ではない赤いファミリア、タダでくれるくらいですからそれなりにガタがきていまして、1年もしないうちにアイドリングは不安定になりました。
信号待ちでは、アクセルを踏んで1000回転くらいを保っていないとエンストしかねません。
しかしその手間が、若かりし、そしてオバカであったワタクシメには、なんだかチューニングカーに乗っているようで、ちょっとだけうれしかったものです。
まあ、困るには困りましたけどね・・・
そう、当時はアイドリングの安定しないクルマなんて珍しくもナンともありませんでした。
ところが、21世紀の現在はどうでしょう?
さすがに修理工場にお勤めの方にとっては、故障したクルマが集まってくるのですから、珍しいことではないかもしれませんが、そうではないワタクシメは、ここ十数年アイドリングの安定しないクルマに出くわしたことがありません。
一体なぜ、アイドリング不調は撲滅されたのか・・・解き明かしていきます。
前回、キャブレーターの原理とフロートチャンバーについてお話ししました。
今回は、その他の部分をメイン系、スロー系、加速系、パワー系の4つに分けてお話しいたします。
メイン系
メイン系固有の部品はスロットルバルブとメインジェットです。
スロットルバルブは右図のような円盤状の板で、スプリングの力によってキャブレーターの空気の通り道を塞いでいます。
ドライバーがスプリング力より強い力でアクセルペダルを踏むと中央の軸を中心に回転し、空気の通り道を広げます。
<右図にマウスを合わせてください〉
メインジェットは右図のような部品で、ネジの真ん中に穴が開いています。
これをキャブレーター内のガソリンの通り道に取り付けることで、ガソリンの流量を調整することができます。
ただし、フツーはメインジェットを変えることはありません。
キャブレーターをノーマルから換装した場合や、エンジン本体をケッコウ本気でいじった場合に必要となります。
で、働きは下のアニメーションの通りです。
簡単ですね。
アクセルペダルを踏んで、スロットルバルブが開くと空気がたくさん流れる。
空気がたくさん流れるとガソリンもたくさん吸われ、エンジン回転が上がる。
思い出話があります。
ワタクシメが幼少の頃に見た光景です。
(クルマはZ33ではありませんでしたが)
運転席に誰も乗っていないのに、ボンネットを開き、エンジンルームに手を突っ込んだメカニックのお兄さんの魔法の手がエンジンを空ぶかしするのです。
ブォ~ン、ブォ~ンとね。
少し大人になって、その構造を知れば不思議でもなんでもない話なのです。
メカニック兄さんは、指でスロットルバルブのリンクをチョイと回転させただけなのです。
大抵こんな時は、何かしらの整備を行った後だったりするもので、エアクリーナーとか、吸気パイプが外されていたりします。
すると、ブォ~ンという排気音に混じって
シュカコワァァァァ~
と盛大な吸気音もしていたはずです。
幼きワタクシメの目には、そのメカニック兄さんが震えるほどカッコよく見えたのは言うまでもありません。
そしてこの手のメカニック兄さん、地方在住であればショートホープをふかし、都市部であればゴロワーズの両切りであったに違いません。まァ、単なるイメージですが・・・
ついでにもう一つ思い出話を。
ワタクシメが運転免許を取得したのは、もうキャブレーターのクルマが大分少なくなってきた頃です。
その頃、先輩の一人が日産・サニートラックに乗っていました。
エンジンを1400ccに換装し、本来の仕様であるインジェクションはソレックス・キャブレーターに付け換えられていました。
さらにハイカム、真っ赤で太いハイテンションコード、そしてタコ足(ナンと自作)が組んでありました。
タコ足を自作してしまうくらいですから、他の部品もすべてDIY。
でも組み付けるのは出来ても、ビミョーなセッティングとなると話は違ってきます。
「リッター4キロしか走らないよ~」
とよく嘆いていたのを覚えています。
そしてサニトラ先輩、暖かくなる春先と寒くなる秋口には、決まって「メインジェット換えなきゃ~」と嘆いていたのも覚えています。
外気温によって空気密度が変るため、それに合わせてガソリンの流量も変更しなければならないのです。
「だって先輩、今だってちゃんとセッティングでてないじゃないですか~」
とワタクシメが指摘しますと、サニトラ先輩は真顔でこう答えました。
「馬鹿野郎! 外気温に合わせてメインジェット換えないと、リッター2キロになちゃうんだよ!」と
実際に何度か、サニトラ先輩の自宅の庭先で、メインジェット交換を見学させていただいたこともあります。
当時の大多数の男性同様、サニトラ先輩も喫煙者でした。
しかし、前述のメカニック兄さんとは異なり、ショッポでもゴロワーズでもなくキャビンマイルドでした。
多分、ショッポかゴロワーズを吸ってさえいればメカニック兄さんのようにカッコよくキャブセッティングを決められたのでしょうが、キャビンマイルドのサニトラ先輩にはリッター4キロがやっとだったようです。
でも正直、けっしてイケメンではなかったサニトラ先輩ですが、キャブセッティングをするその姿がカッコよく見えたことも言うまでもないでしょう。
もう一人の先輩が駆るのはスズキ RGγ。
250ccのレーサーレプリカでした。
コチラの先輩、講釈だけはメカニック兄さんを凌ぎました。
「メインジェットが~」、「フロントフォークのオイル粘度が~」、「スプロケットの歯数を~」、「ガソリンはシェルのハイオクだ~」と枚挙にいとまがありません。
でもこの先輩のガンマ、チャンバーしか変えていないのをワタクシメ達後輩は知っていたのです。
おかげで後輩の間では、この先輩は少々の侮蔑を込めて「メインジェット先輩」と呼ばれていたのは内緒の話です。
今回は、ほぼ無駄話に費やしましたが、次回はパワー系、加速系、スロー系のお話をします。
続く
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