最新ガソリンエンジン

- 第12回 燃料系 その4 -

2016/06/13 公開

coffee

♪キリンミ~ ソフトリ~ ウィズ ヒズ ソォォォォォング♪

と、ロバータ・フラックが歌って大ヒットしたのは1972年のことだそうです。
ワタクシメはまだ子供で、こんな大人びた曲を聴くこともなかったはずですから、ワタクシメの記憶に残っているはきっとネスカフェのCMです。
ところがそのCM、youtubeで観てみると、歌っているのは本人ではなく、しかもサビの部分で

♪ネ~スカフェ~ エクセラ~♪

と歌っているではありませんか!
ちょっと衝撃的です。
齢を重ねてまいりますと、記憶の中で「こうだったはずだ」と信じて疑わなかったことが、なにかしらの資料やら映像で無残に打ち砕かれるコトが増えてまいりましたが、この件も、まさにその一例であります。
こうやって、オッサンの記憶力も優しく殺されていくのでしょうか・・・(涙

さて、話をクルマに戻すと、前章の点火系に登場したデスビは、この曲にあるように優しく殺されました。
曲の中では殺すのは「彼の歌」ですが、デスビを殺したのは「電子制御化」です。
この電子制御がデスビを優しく殺していく過程を簡単に記すと以下のようになります。

機械式断続装置

セミトラ

フルトラ

電子制御

ダイレクト・イグニッション

クライスラーがセミトラ式のデスビを採用したのが1972年。日産がダイレクト・イグニッションを採用したのが1985年。
13年間にわたり、デスビは少しずつ、少しずつ殺されていきました。
しかし、今回の主役のキャブレーターは・・・

type3 1968年というから大分ムカシです。
フォルクスワーゲン タイプ3に採用された電子制御式燃料噴射装置は、キャブレーターを瞬時に殺しました。
愛らしい動きをする加速ポンプも、名前倒れのパワーバルブも、「浮」という名前のくせに古くなると沈没するフロートも、一瞬のうちに消し去られたのです。

♪ ビデオ キル~ ザ レ~デォスタ~♪

ご存知「ラジオ スターの悲劇」はバングルズが1979年に歌った曲です。
古いモノが新しいモノに駆逐されていく様子を歌っています。

暫くの間、この曲を口ずさみながら読み進めてください。

「覚えてね~よ!」

と仰るオッサンは、コチラを。

さて、某輸入車のメカニックをしていた方の話をします。
ここでは、仮に佐々木さんとします。

1990年代のことですから、クルマはすべて電子制御化されていました。
エンジンの調子が悪く故障診断となると、各メーカーが独自に開発した、ちょっとしたコンピューター的な診断機をクルマに繋いで行う時代です。
その佐々木さん、当時50歳前後だったと思うのですが、その輸入車一筋30年的な、いぶし銀メカニックでした。

歴史のあるメーカーでしたので、時折クラシックカーが入庫します。
すると佐々木さん、
「ストロンバーグならオレに任せとけ!」
とは口にはしなかったものの、嬉々としてそのクルマの修理をしていました。
ストロンバーグとはキャブレーターの形式のことですが、英ゼニス社製キャブレーターの代名詞のように使われていたと記憶しています。(←チョットアヤフヤ

しかし佐々木さん、あまりコンピューターはお好きでなかったようで、診断機相手に「こんなのやってられねェ!」とボヤいているのを耳にしたことがあります。

故障診断機が、やがてメーカー専用機からウインドウズ ノートPCに替わる頃、佐々木さんが退職なされたと耳にしました。
メーカー直系の整備工場から、古いクルマを扱う修理工場への転職だったとのことです。

直接うかがったわけでもなく、お会いしたところで本音を語って下さるとも限りません。
もしかしたら会社の用意した早期退職プログラムを利用して有利な条件でお辞めになったのかもしれませんし、定年後も務められるからとか、その他の理由だっていくらでも想像することができます。
しかしワタクシメには、佐々木さんは電子制御がイヤになって辞められたような気がしてなりません。

オニのように古いオートマをオーバーホールして、
「これが原因だったんだよッ」
と嬉しそうに小さな部品をワタクシメの前に差し出す佐々木さんと、
診断機のモニターの前で頭を抱える佐々木さんの姿が、ワタクシメにそう思わせるのです。

そう、電子制御燃料噴射装置はキャブレーターだけでなく、佐々木さんも殺したのです。


時代の変化についていけないガンコ者、と佐々木さんを断じるのは容易です。
しかしそうはしたくない。
我々だって、そう遠くない日に・・・

ユ~ア~ レデォスタアアアアアアアアア~

ユ~ア~ レデォスタアアアアアアアアア~




辛気臭くなりましたので、話を電子制御燃料噴射装置に戻します。

まずは名称の話です。
電子制御燃料噴射装置とはあまりにも名前が長いので、ここから略称を使います。
トヨタはEFI
日産、マツダ、スバルはEGI
三菱はECI
ホンダはPGM-FI
と呼んでいますが、ここではEFIを使うこととします。

EFIと、呼び名は短くなりましたが、内容は多岐にわたる予定です。
大きな括りから小さな括りへ向けて括っていくつもりではありますが、話がアッチへ飛びコッチへ飛び、となることが避けられそうもありません。
予めご了承のほど、よろしくお願いいたします。

・作動原理


EFIは上図のような仕組みで、一言でいってしまえば、
「様々なセンサーからの情報に基づいて、燃料ポンプで加圧したガソリンを適切な量とタイミングで吸気管内に噴射する。」
となります。

スロットル開度センサーでアクセルの踏み込み具合を、
エアフローメーターでエンジンが吸い込んでいる空気の量を、
クランクシャフト角度センサーでエンジン回転数を、
測定し、必要な燃料噴射量を演算します。
また、カムシャフトやクランクシャフトの角度センサーからの信号で噴射タイミングを演算します。


EFI02 そしてナニを基に計算するかと言えば、コレ→です。
点火系でも登場した三次元マップです。
軸は吸入空気量、エンジン回転数、スロットル開度ですが、これは基本噴射量で、コレに加えてエンジン冷却水温とか、吸入空気の温度だとか、ターボのブースト圧だとか、排ガスの量だとか、様々な条件によって噴射量の補正が行われます。


・制御方法

このEFI、制御の方法が2種類ありました。
LジェトロニックとDジェトロニック。
Lジェトロとか、Dジェトロと略して呼ぶと、「あ~、聞いたことあるな・・・」と思い出されるオッサンもいらっしゃるのではないでしょうか。

ここで間違い探しクイズです。
下のLジェトロとDジェトロの原理図の違いを探してみてください。


LジェトロにはエアフローメーターがあってDジェトロにはない。
Dジェトロには吸気管圧力センサーがあってLジェトロにはない。
が正解です。

前述の通り、エアフローセンサーはエンジンが吸い込む空気の量を測定します。
Lジェトロは、物理的な吸入空気量を基に燃料噴射量を演算しているわけです。

それに対してDジェトロは、いわば見込み噴射です。
エアフローセンサーで吸入空気量を測定する代わりに吸入空気量を推測して演算するのです。

「エンジン回転がこのくらいで、スロットル開度がこのくらいで、吸気菅内の圧力がこのくらい・・・ならエンジンは空気をこのくらい吸い込んでるはずだ。ということは噴射量はこんなもんだっぺ!」

と言うわけです。

量産車初のEFI搭載車であるフォルクスワーゲン タイプ3をはじめ、初期のEFIは主にDジェトロであったそうです。
しかし排出ガス規制が厳しくなってきた頃からLジェトロが普及し始めた、とWikiに書いてありました。

「見込み」でやるなら、ちゃんと量を測るLジェトロの方がイイじゃん!
と思えるのですが、初期のエアフローセンサーは下図のようで、大きな吸気抵抗となっていました。
ちなみに下図のエアフローセンサー、正式にはフラップ式と呼びますが、俗称は暖簾式です。
なるほど吸入空気の通り道に暖簾がかかっているようで、空気にとってはとても邪魔に違いありません。


この吸気抵抗のため、80~90年代にかけて、Dジェトロの方が高性能であるという話が広まっていました。
古ーい雑誌を読み返すと、Lジェトロであるトヨタ 4AGエンジンをDジェトロに改造した・・・なんて記事があったりします。

civic 各車がLジェトロを採用するなか、高性能の証であるDジェトロを採用していたのがホンダです。
当時、「ホンダのエンジンは電気モーターのようにスムーズに回る」なんて声がありました。
実際に電気モーターのクルマが登場すると、全然電気モーターとは違っていた。なんてオチもありましたが、とにかくホンダ エンジンは良く回った。

これはDジェトロだからだ!

と、若かりしオバカなワタクシメは信じておりましたが、実際のところはどうだったのか・・・
いずれにしても、他社と違うことをしているホンダは孤高でカッコよく見えたものです。
しかし80年代初頭から、吸入抵抗の小さなエアフローセンサーが登場。
さらに時代が流れ、排ガスやら燃費やらが厳しくなってくると「見込み」噴射のDジェトロでは対応ができないらしく、孤高のホンダも今はLジェトロ。
聞くところによると、大量EGRのおかげで「見込み」噴射じゃダメらしいです。
ちなみにEGRについてはコチラを。

こうして、EFIの黎明期には活躍したDジェトロでしたが、今ではその姿を見ることができなくなりました。
キャブレーターを殺したEFIでしたが、そのEFIの中でも・・・

ユ~ア~ レデォスタアアアアアアアアア~

次回は、もう少しEFIの種類についてお話します。

続く


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