もう15年も昔の話です。
当時、秋葉原に行ってパソコン用のCPUを買うと、写真左上のファミコンソフトのような部品を手にすることができました。
今となってはもう懐かしい名前、インテル ペンティアムⅢ プロセッサーです。
それが2000年か2001年に、名称はペンティアムⅢのまま次世代モデルに置き換わり、写真右下のような部品になりました。(写真はペンティアムⅢではなくCore i7)
昔のクルマ同様、マニアの間では開発コードで呼ばれていて、ファミコンカセットタイプのヤツが「カトマイ」、次世代のが「カッパ―マイン」でした。
「今度のSR20DETの排気バルブはナトリウム封入だって!」
と
「今度のサンダーバードは2次キャッシュ内蔵だって!」
は同じ種類の言葉です。
言うまでもなく、SR20DETは4代目 日産 パルサー GTI-Rに搭載されたエンジンで、サンダーバードはAMD社製のCPUの開発コードです。
ちなみにこのサンダーバード、安価で高性能であったのですが熱を持ちやすく、マニアの間で「焼き鳥」と呼ばれていました。
時は流れて2016年の今、CPUを開発コードで呼ぶパソコン改造雑誌も、クルマを型式で呼ぶCAR BOYやOPTIONなどの自動車改造雑誌も、もはやこの世にありません(涙
この頃のクルマの高性能化もすさまじい勢いでありましたが、パソコンの進化速度はさらに凄まじいものがありました。
ナンでパソコン?
そうオッサンの皆様方が訝しがるのももっともで御座いますが、EFIを始め各種電子制御装置の進歩はコンピューターの進歩なしには語れません。
右図の右側は初代ファミコンに登場のマリオです。ご存知ですよね。
左側は、最新のプレイステーション4のゲーム「コール・オブ・デューティー」の画像です。
残念ながらワタクシメ、最後に買ったゲーム機はセガ サターンだったので、コール・オブ・デューティーは名前しか知りません。
知りませんが、1985年に発売されたスーパーマリオブラザースと、2016年製のコール・オブ・デューティー。
30年という年月が如何に長いのかを如実に物語っています。
話をクルマに戻しましょう。
何故にココでコンピューターの進歩について語ったのかと申せば、EFIの心臓部はコンピューターだからです。
もちろんEFIだけではなく、クルマに使われているすべての電子制御装置のコントロールユニットはコンピューターです。
たとえ話ではありますが、1985年当時のコントロールユニットはマリオを動かす程度のコンピューターであったわけです。
「あ~いまエンジン回転は××rpmか。で、スロットル開度は○○%だ。吸入空気量は△△だから、基本噴射量は・・・え~と、□□だ。
あっ、チョット待って。エンジン水温が低いヨ。え~エンジン水温が**度の時の追加量は▲▲だから・・・・噴射量は・・・待っててね、いま計算するから・・・
基本噴射量が□□で追加が▲▲だから足し算して・・・出た! ●●だ。よーしインジェクター、●●だけ燃料を噴け!」
きっとコントロールユニットの中では、カクカクしたオッサンが一生懸命計算していたことでしょう。
さて、今後こそ本当に本題に戻します。
燃料の噴射方法には以下のような種類がありました。
- シーケンシャル噴射は順次噴射とも呼ばれ、各気筒の吸気行程に合わせて燃料を噴射します。
- グループ噴射は、まあ、ちょっと手抜きですね。
3気筒ずつまとめて噴射してしまいます。
- 同時噴射は・・・これは・・・たとえば、わかっていてこんな手抜きをされたら結構怒っちゃう、てくらい手抜きですね。
いいのか、ホントにこれで! と言いたくなっちゃいます。
しかしながら、昔のコントロールユニットでは計算しているのがカクカクのオッサンです。
6気筒の場合、シーケンシャル噴射と同時噴射では、単純に6倍の量の計算が必要となってしまいますから、カクカクオッサンとしては同時噴射の方が大変助かるわけです。
ところが・・・です。
某雑誌で、日産のエンジニアの方の回顧録を読みました。
それによると、初代のEFIはアナログ電子制御であったとのことでした。
アナログ電子制御・・・・????
電子制御とは、全部0と1で計算されるものであると思い込んでいたワタクシメは、目からウロコが2枚くらい落ちました。
さっそくググって、Wikiに「アナログコンピューター」なる項目を見つけました・・・・が、よく解りません(涙
まあとにかく、初期のEFIに使用されていたコンピューターはカクカクオッサンですらなかった、ということだけわかりました。
となれば、同時噴射も致し方なしですね。
現在では、当然のごとくシーケンシャル噴射がすべてのエンジンで採用されているはずですが、1990年代まで同時噴射制御を使っていた車種もあるそうです。
ちょっと変わったところで、多気筒にもかかわらずインジェクターが1本の「セントラルインジェクション」なんてのもありました。
廉価グレードに設定されていました。
たとえば2.0リッターのデラックスには気筒数分のインジェクターが、1.8リッターの安いグレードにはセントラルインジェクション・・・的な使われ方をしていました。
続いて、昔のEFIでたまに見られたコールドスタートインジェクターです。
普通のインジェクターに加え、冷間時の始動用に増量のためのインジェクターが付いてたりしました。
これは大きく見ればキャブレーターで言うところのチョークバルブと同じ目的なわけで、絶滅したキャブレーターの怨念がこんなトコロに・・・
この追加インジェクターも現在では見られなくなりました。
1996年に登場したのが三菱 ギャランに搭載されたのがGDI。
筒内直接噴射、ダイレクトインジェクション、DIなどと呼ばれています。
シリンダーの中に直接噴射する理由については後述しますので(相当先になるとは思いますが・・・)、ここではその仕組みだけを。
インジェクターの位置を変えただけでしょ!
と言うわけにはまいりません。
吸気ポートに噴射する(以下、ポート噴射)場合には、燃料をたいして加圧する必要がありません。
吸気管内は基本的に負圧で、ターボエンジンでも一般的には1kg/cm2ちょっとですから、それよりも燃圧が高ければ燃料を噴射することができます。
ところがDIでは、10kg/cm2を軽く超える圧縮行程中のシリンダー内に噴射するので、それよりも高い燃圧を作らなければなりません。
となると電気式の燃料ポンプでは能力不足となり、カムシャフトやクランクシャフトで駆動する高圧ポンプを使うことになるのです。
でもさ、筒内噴射なんて昔からあるじゃない!
とツッコまれるオッサン、正解です。
1954年のメルセデス・ベンツ 300SLは筒内噴射でした。
さらに言えば、1936年にメッサーシュミット Bf109に搭載されたJomo210エンジンも筒内燃料噴射です。
まッ、右画像はJomo210型が搭載されたBf109B型ではなく、Bf109E型ですねどね。
ドーでもいい!
と、怒声が聞こえますが・・・好きなんですよォ、Bf109
300SLやBf109が採用した筒内噴射は機械式で、以下のような仕組みでした。
機械式では、インジェクター内の弁がスプリングによって閉じられています。
ポンプが燃料を圧縮し、燃圧がインジェクター内のスプリング力に打ち勝つと、弁が開いて燃料が噴射されます。
つまり、噴射量や噴射タイミングはポンプが調整します。
一方、電子制御のDIでは、ポンプはただ燃料を加圧するだけ。
量やタイミングはコントロールユニットがインジェクターの弁を開閉することで調整します。
これで大きな括りの話は終わりです。
EFIの大まかな姿をご理解いただけましたでしょうか?
次回から、各部品の進化を見ていきます。