最新ガソリンエンジン
- 第11回 燃料系 その3 -
2016/05/20 公開
パワーバルブとか、加速ポンプという名前の部品がキャブレーターには付いています。
どちらも、とても力強い響きです。
パワーバルブは、マリオカートでアイテムを拾ったときに、一時的ではありますが最高速がググッと速くなるアレに違いありません。
パワーバルブ オ~ン!!
と叫びながら、センターコンソールのドコかに隠されたボタンを押すと、高速道路で隣に並んだライバルをググッと引き離すことができるはずです。
加速ポンプ・・・、
ポンプと言えば最近ワタクシメが想像するのは右の写真で、首都圏外郭放水路の排水ポンプです。
ご存知の方も多いかと思いますが首都圏外郭放水とは、首都圏で大雨が降ったときに、洪水を防ぐために一時的に雨水を溜めておく施設です。
で、この排水ポンプ、元々はボーイング737を飛ばすためのジェットエンジンだそうです。
なんたって、中型機とは言え旅客機を飛ばすジェットエンジンですから、コレで水を吸い出すとなればチョー強力です。
ナンと1秒間に、小学校のプールの水1杯半分を排水できるそうです。(←1基あたり:現在はこのポンプが4基備えられているそうです)
となれば、同じポンプですから、キャブレーターに取り付けられた加速ポンプも、すさまじい量のガソリンをエンジンに送り込むに違いありません。
加速ポンプさえあれば、アクセルペダルをグイと踏み込んだ刹那、ドライバーオッサンの体はシートバックにめり込むことに疑う余地はないのです。
パワー系
冗談はこれくらいにして、まずはパワー系の話です。
キャブレーターにはパワーバルブなるものが付いていて、エンジンが空気を吸い込む力を利用してバルブを閉じたり開いたりします。
オッサンドライバーは平坦な道路を60km/hくらいで、のんびり走っています。
エンジン回転数は1500rpmくらいでしょうか。
やがて坂道に差し掛かります。
オッサンがグイとアクセルを踏んでも、相手は上り坂。
エンジン回転が上がるどころか下がり始め、それにつれて車速も下がります。
「なんてパワーのないクルマだ!」
と、自動車メーカーにとっては大切なお客さまであるオッサンに苦情を言われては大変。
そこで、パワーバルブの登場です。
以下にパワーバルブの作動原理を。
残念ながら、キャブレーターのパワーバルブには、ニトログリセリンを噴射したり、瞬間的にターボのブースト上げたりするような、ちょっと背徳感のある、ちょっとワルを感じるような効果はありません。
力不足を感じるようなときに、それを緩和するためにチョットだけガソリンを増量するだけの装置です。
「パワー」を名乗るには、少々名前倒れの感がないでありませんが、エンジンの空気を吸い込む力とスプリングだけの純機械式制御、なんだかカワイく思えます。
加速系
賢明なオッサン読者諸兄であれば、「どうせ加速ポンプも名前だけだろう・・・」とご推察なさっているに違いありませんが、
正解です。
しかしこの加速ポンプも、純機械式制御のとてもカワイイ仕組みなのです。
この動きをキャブの外から見てみると・・・
ねッ、カワイイでしょ。
見てるだけで楽しくなってきて、何度も動かしてみたくなります。
ただし車載状態だと、スロットルリンクを回す度にガソリンが噴き出しますので、やりすぎるとプラグがベチョベチョに・・・
スロー系
では、最後にスロー系の話を。
スロー系とは、アイドリング時の制御です。
ただし制御とは言っても、キャブレター自身が何かの調整を行っているわけではなく、人間様の調整シロが用意されているだけです。
キャブレーターにはアイドリング専用のガソリン流路があり、この流路を流れるガソリンの量を調整するのがスロースクリューです。
スロースクリューをマイナスドライバーで締めつけるとガソリン流路が狭まりガソリン供給量が減って混合気が薄くなり、アイドリング回転数は下がります。
逆にスロースクリューを緩めれば流路が広がって混合気が濃くなり、アイドリング回転数が上がります。
もう一つはアイドルアジャストスクリューです。
スロットルバルブはスロットルリンクにつながっていて、スロットルリンクにはアクセルペダルからのワイヤーが巻きつけられています。
アクセルペダルが踏まれていない時は、スロットルリンクはスロットルバルブを閉じる方向にスプリングによって引っ張られています。
この引っ張られて止まる位置を調整するのがアイドルアジャストスクリューです。
アイドルアジャストスクリューを締め付けると、スロットルリンクの止まる位置はスロットルバルブが開く方向に移動して、アイドリング回転数は高くなります。
アイドルアジャストスクリューを緩めるとその逆で、アイドリング回転数は低くなります。
始動系
最後に始動系の話をちょっとだけ。
始動系と言っても、バルブが一つだけ。
今となっては懐かしいチョークバルブです。
オッサン諸兄は、ダッシュボードの片隅にこんなノブがあったのをご記憶でしょうか?
ワタクシメが運転免許を取得した頃でも相当くたびれたクルマにギリギリ付いていたくらいなので、おそらくワタクシメより若いオッサンは実体験がないかもしれません。
で、このノブ。ドコにつながっていたかと言えば下の画像で、キャブレーターの一番上流に付いています。
さらに、チョークノブをご存じない若者オッサンのために、簡単な作動イメージを ↓
チョークと言えばもちろん、プロレスで出てくるあのチョークと同じで、「息が詰まる」とか「窒息する」の意味です。
で、キャブレーターでナニを詰まらせるかと言えば、エンジンの吸入空気に他なりません。
エンジンが冷え切った寒い朝一番の始動時など、このチョークノブを引いてチョークバルブを閉じます。
そこでスターターを回してエンジンに空気を吸い込ませると、吸気管は密閉されているに近い状態なので負圧が非常に大きくなり、ガソリンがたくさん吸い出されます。
すると濃い混合気が出来上がり、寒い朝にもエンジンが始動できるというわけです。
ここで余談を・・・というか愚痴を聞いてください(涙
先日ワタクシメ、ディーゼルエンジンの優位性の説明文章を英文で作らなけらばならい仕事を受けました。
もちろんワタクシメの英語など、ネイティブ英語人が読むに堪えないものなので、米国人にチェック・修正してもらわなければなりません。
オッサン諸兄はご存知の通りディーゼルエンジンにはスロットルバルブがないため、吸気通路を絞らないので効率が良いわけですが、
その「絞る」の部分に「チョーク(choke)」という動詞を使いました。
で、その米国人曰く
「オ~、ワタクシメ サン、チョーク ッテ ドウシ、ワカリヅライヨ~」
と、件の米国人が指摘してきました。
この男、日本で10年以上暮らしている割に日本語がさほど・・・
なので、読者オッサン諸兄も、英語イントネーションで読んでいただけると幸いです。
「ワタシ ハ ワカルヨ。ワタシ モ オッサン ダカラネ~。ダイガクセイ ノ トキニ ノッテイタ シボレー ニモ ツイテイタヨ チョークバルブ」
何の躊躇もなく、「choke」という動詞を使っていました。
昔から、吸気を絞るのはチョークだと信じていたのです。
ナンと言ったって、吸気を絞るバルブの名前が「チョークバルブ」であったのですから!!
「デモ、イマノ ワカイ ヒト、チョークバルブ シラナイヨ!」
「ダカラ、チョーク デ クウキ ヲ シボル ノハ オカシイヨ!」
愕然としました。
いえ、頭では分かっていました。
自分が新しい人間でないことくらいは。
でも、このオハイオ出身のオッサンに思い知らされたのです。
嗚呼、オレは古い人間なんだ(号泣
閑話休題
愚痴を聞いただいてスッキリしたところで、話を前々回
(第9回 燃料系 その1) | の冒頭部分に戻します。
昔のクルマのサンバイザーの裏面には、以下のようなエンジン始動のコツが書かれたシールが貼ってあった、という話についてです。
「寒いときにエンジンをかける場合は、チョークを引いて、アクセルペダルを2~3回踏んでからアクセルペダルを放してからスターターを回せ。」
一体、これは何の儀式だったのでしょうか。
そう、もうお分かりですね。
気温が低いと、ガソリンが気化しづらい。
気体にならないとガソリンは燃えないので、気化するガソリンをちょっとでも増やしたい。
なので、とにかく吸気菅に大量のガソリンを送り込まなければならない。
そのために
- チョークノブを引く:すでにお話しいたしましたよう、吸気管内の負圧を最大限にして、できる限り多くのガソリンを吸い上げます。
- アクセルペダルを2~3回踏む: 加速ポンプを作動させて、吸気管内にガソリンを噴射します。
- アクセルペダルを放す: スロー系のガソリン出口はスロットルバルブ付近にあるので、スロットルバルブを閉じることでベンチュリー効果を発生させてスロー系からのガソリンの吸い上げ量を増やします。
いかがでしたでしょうか?
3回に渡ってキャブレーターの原理についてお話ししてまいりましたが、点火系のデスビ同様、純機械式制御の愛すべき存在でした。
たとえばフロートチャンバー内のフロート。
オームカシは真鍮製でした。古くなってくると腐食して穴が開きます。
穴が開くとガソリンが内部に流れ込み、フロートが沈没します。
するとニードルバルブは開きっぱなしで、フロートチャンバーからガソリンが溢れ出します。
たとえばスロットルバルブ。
バルブの軸にカーボンが溜まると、動きが渋くなります。
開く方向は、人間様がアクセルを踏むので開きますが、閉じる方向はスロットルリンクに引っ掛けられたスプリングの力のみ。
カーボンが溜まりすぎると、アクセルを踏んでエンジン回転が上がりますが、アクセルペダルを放してもスロットルバルブが引っかかって閉じない。となれば、エンジン回転は上がったまま。
恐ろしくて乗れたものではありません。
たとえば加速ポンプ。
スロットルリンクとロッドをつなぐのが樹脂製の部品だったりします。
古くなってプラスチックの爪がポキッと折れれば、もう加速ポンプは作動しません。
1967年、こんな弱々しく、愛すべきキャブレーターに衝撃的な事件が起こります。
以下、続きます。
続く
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