トヨタ ハイブリッド システム

- 第5回 トランスミッションは何処へ -

2014/06/23 公開

トランスミッションと言えば、クルマにはなくてはならない存在です。
エンジンを内閣総理大臣に喩えるなら、トランスミッションは内閣官房長官みたいなものです(ホントカヨ?)
残念ながら、今のエンジンでは、クルマの走行に必要な回転やトルクのすべてを補うことが出来ません。
エンジンとタイヤを直結すると(実際には変速機の後にもう一段減速するのですが)、発進時にはエンジンの力が足りず、高速道路では回転が高くなりすぎて、騒音や燃費が問題になります。
直結というと、5MTや5ATでいうとことの4速に当たります。
4速で発進することや、高速道路を巡行することを考えてみれば、トランスミッションの必要性が分かるかと思います。
で、この必須のトランスミッションですが、トヨタ ハイブリッド システムには存在しません。
かと言って、エンジンとタイヤを直結しているわけではありません。どこかでエンジン回転を減速したり増速したりしているはずなのです。
この仕組みこそ、タマゴが立った所以です。

もう一度、簡略したシステム図を見てみましょう。

hbSystem1

ご覧の通り、エンジンとタイヤの間には一組の遊星ギアしかありません。
ここで注目して欲しいのは、サンギアに発電機がつながっているところです。
発電機といえば、一番身近なのはこれではないでしょうか?

dynamo
そう、自転車の前輪についてる発電機です。
ONにすると、グワァ~ングワァ~ンと音を立ててライトのための電気を作ってくれるアレです。
このダイナモ、ONにすると急にペダルが重くなるのは誰もが経験していると思います。
つまり、自転車の運転手は、ライトを点灯するためのエネルギーを、自らの体力を削って作り出しているのです。
あの小さな豆電球一つ点灯するだけで、あれだけの重さになるのですから、プリウスを加速するために必要な電気を作り出すのがどのくらい大仕事なのか、見当もつきません。
「そんなに重くないんじゃね?」
とおっしゃるオッサンのために、ワタクシメの体験談を一つ紹介させていただきます。



ある4WD車のバッテリーが上がり、エンジンを始動できませんでした。
4200CCのディーゼルエンジンのクルマでした。
たまたま傍にあった、V6・3000CCガソリンエンジンのクルマから電気を分けてもらうことにしました。
ジャンプコードを接続し、ガソリン車はエンジン回転数2000~3000rpmを保ちます。
そこで、おもむろにディーゼル車のスタータースイッチをONにすると・・・

ガツン!

と音を立ててガソリン車がエンストしました。
ただし、実際にガツンと音がしたかどうかは定かではありません。状況を思い出すと、ガツンが適切な効果音に思えたのでそうしたまでです・・・

話を戻しましょう。
ディーゼル車のスタータースイッチをONにしたとき何が起こったのでしょうか?
その瞬間、ディーゼル車のスターターモーターと、ガソリン車の発電機の間に回路が成立します。
ディーゼル車のスターターモーターが要求する電力は強大です。
その強大な電力を賄おうと、ガソリン車の発電機は力いっぱい発電しようとします。
自転車で喩えると、前輪の全周に渡って100個もダイナモを取り付け、一斉にONにしたようなものです。
一個のダイナモでもあれだけペダルが重くなるのです。それが100個となれば、ペダルは岩のように重くなるでしょう。
その重さに耐えきれなくなったガソリン車のエンジンは、ガツン!と音を立ててエンストしたのです。
でも、考えてみれば、3000CCエンジンの2000回転といえば、結構な力ですよ・・・。
恐るべし、発電機の重さ・・・と言うことになります。



この喩で申し上げたかったのは、我々が想像する以上に電気を作るのは重労働だということです。
状況によっては、エンストさせてしまうくらいの重さを発電機は生み出すことが出来るのです。

さて、ここからが本題です。
トヨタのエンジニア氏が思いついたシステムでは、サンギアは発電機につながっています。
で、この発電機、発電量を調整することが出来るようになっています。
言い換えれば、重さを調整することが出来るのです。
たくさん発電するときには重く、ちょっとしか発電しないときは軽い。
自転車で喩えれば、ダイナモが10個なのか1個なのかということになります。
下の図を見てください。

もうおなじみの遊星ギアです。
再度確認しますと

赤が発電機
紫がタイヤ
青がエンジン
です。

タイヤにつながっている紫のインターナルギアには、クルマを動かすまいという力(走行抵抗)が常に働いていますから、なるべくなら動きたくないわけです。
青のプラネタリーキャリアはエンジンにつながってますから、常に回転しています。
さあ、そこで発電機につながっている赤のサンギアです。



上の図の、サンギアを「固定する」ボタンをクリックして下さい。
サンギアが固定されて回転しません。
これは目一杯発電しようとする状況です。
ただし実際には、サンギアが回転しないので発電はしませんが・・・説明のための特殊な状況だと考えてください。
青はエンジンで回転させられている。赤は頑として動かない。
ので、基本的に動きたくない紫が動かざるを得ないわけです。
この状態では、エンジン回転数に対してタイヤの回転数が増速しています。
つまりオーバードライブ。5ATでいうところの5速です。



サンギアを「少し緩める」ボタンをクリックして下さい。
発電量を減らすことで、発電機が軽くなり、サンギアがゆっくり回転します。
エンジンからの入力(青)に対し、出力(紫)が減速されているのが分かりますでしょうか?



サンギアを「もっと緩める」ボタンをクリックして下さい。
さらに発電量を減らすと、減速の度合いが大きくなります。
ATでいうところの1速とか2速の状態になります。



egg さあ、いかがでしょうか。
これで、トヨタのハイブリッドシステムがトランスミッションを必要としないことをご理解いただけましたでしょうか?
トヨタのエンジニア氏は、モーター、エンジン、発電機の動力分割・合成と、トランスミッションの役割を、見事たった一組の遊星ギアで実現したのです。
これぞまさにコロンブスのタマゴ。

そう、タマゴが立ったのです。


続く

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