トルクベクタリング

- 第6回 TCS -

2016/07/27 公開

christmas 以前にテレビの天気予報で聞いたのですが、観測開始以来、東京でホワイトクリスマスになったことはないそうです。
なのでこの物語は、関東以北でのお話となります。

時は1980年代後半、日本中が浮かれていた頃です。
12月24日。
夕方から降り始めた雪は、あたりを薄っすらと覆い始めます。

既婚のオッサンは、お子さんがいらっしゃるならお子さんに、DINKS(←この言葉も聞かなくなりましたね)であれば奥様にしたためたクリスマスプレゼントを助手席に家路を急ぎます。

♪ ドラ~イビング ホーム フォー クリスマス♪

ラジオからはクリス レアが流れます。
ああ、聖なる夜・・・幸せな光景です。

しかし経済的に成功したオッサンにとって、本当のクリスマスは25日にやってきます。
そう、メカケと過ごす性なる夜です。

奥様向けより一回り大きなプレゼントを助手席にしたため、予約したレストランに急ぎます。
昨日から降り続く雪は、道路にまで降り積もっています。
「イブは寂しいおもいをさせてゴメンな・・・」
赤信号で止まると、そんなキザなことでも言ってやろうか・・・なんて妄想を始めます。
「プップッ」
軽いクラクションで我に返ったオッサンは、信号が青に変わっているのに気づきます。
慌てたオッサンは、不意にいつもより多めにアクセルペダルを踏み込みます。

金持ちオッサンです。
愛車はドイツ製の、少なくとも直6・3,000CCエンジン。あるいはV8・4,000CC、もしかしたらターボまで付いているかもしれません。
不用意なアクセルワークで大トルクの伝わった後輪は、積もった雪をむなしく掻き毟り、高級外車は大きくリヤを振り出し、横の車線のクルマにガツン・・・

警察を呼び、事故の検証をし、保険会社に連絡し・・・
当然、予約の時間に間に合うはずもなく、メカケはプリプリ怒り出し・・・

なんてことは起こらず、金持ちオッサンの高級ドイツ車はこともなげにスルスルと発進したのでした。
金持ちオッサンとメカケを幸せにする。

そう、これがトラクションコントロール(TCS)です!


1986年、ボッシュが世界に先駆けて開発した、電子制御式駆動力制御装置です。
とは申しましたが、ABSの稿と同様に世界初をググったところ・・・
やっぱり出てきてしまいました、アナログ制御TCS。
世界初は1971年のビュイックで、大出力の後輪駆動車に採用したそうです。

なのでやはりボッシュの「世界初」は、電子制御式のTCSでは、ということになります。
作動は下のアニメーションの通りです。


まずスロットルバルブを閉じて、それでも空転が収まらなければブレーキ制御という2段式です。
そのブレーキ制御の部分は、ABSと同じ部品の中で済ませますが、油圧の流れは以下の通りです。

ABSはドライバーが足でつくりだした油圧を抜くシステムでしたが、TCSは誰もブレーキペダルを踏んづけていないのにブレーキ力を発生させることができるシステムです。
さあ、これでエンジニアはいつでも好きなときにブレーキをかけることができるようになりました。
あとの問題は、「いつ」だけです。
次回、VDC、そしてブレーキ制御式トルクベクタリングへと続きます。

続く


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