マツダ SKYACTIV-D (SH-VPTR型エンジン)

- 第2回 ガソリンエンジンの排ガス-

2014/05/31 公開
2016/05/28 改稿
skyLine

「いや~、ジャパンは遅かったねェ!」

かなり昔に、大先輩がそうおっしゃっていたのを記憶しております。
「ジャパン」とは、5代目 日産 スカイラインのことです。
なんといってもこのジャパン、1977年デビューですから、ワタクシメは運転したことはありません。
そしてもちろん、ジャパンの前モデルである「ケンメリ」も運転したことがありませんから、比較してジャパンがどれだけ遅かったのかを知る由もありません。

ここまで書いてふと思いました。
3代目スカイラインは「箱スカ」 、前述の通り4代目が「ケンメリ」、5代目が「ジャパン」、6代目は「鉄仮面」で7代目が「セブンス」。
そう、当時のクルマには愛称がありました。
それはスカイラインに限ったことではなく、「クジラのクラウン」、「だるまセリカ」、「ブルドッグのシティー」、「Nコロ」、「セブン」、「てんとう虫」、「ベレG」、「ワンダーシビック」。
愛称代わりに型式で呼ばれているクルマもたくさんありました。「510ブル」、「27、71、ハチロク」、「S13、14、15」、「R32、33、34」、「SW11、SW20」。
枚挙に暇がありません。

愛称ですから、あの頃のクルマは、やはり愛されていたのでしょう。
翻って現在の状況をを見てみると、愛称で呼ばれているクルマがあるでしょうか?
型式で呼ばれているクルマがあるでしょうか?
現行スカイラインの型式がV37であることを、オッサン読者諸兄のうちどのくらいの方がご存知でしょうか・・・?
やはり今のクルマは愛されて・・・

イエ、これ以上言うとブルーになるので話をジャパンに戻します。

ジャパンがデビューした1977年とは昭和で言えば52年になります。
これでピンときたオッサンは鋭い。
ジャパンは、ヒジョーに厳しい昭和53年排出ガス規制をクリアしなければなかったのです。
おかげで排気ガスはきれいになりましたが出力低下を免れず、「羊の皮をかぶった狼」のはずのスカイラインも牙を抜かれ羊になってしまったというわけです。

ドーしてマツダ SKYACTIV-Dの話なのに、ジャパンの排ガスの話をするんだと訝しがるオッサンの皆様、もちろんおっしゃる通りです。
しかし、近年のディーゼルの進化は排ガス性能の進化に他ならないのです。
なので、まずは身近なガソリンエンジンの排ガスの話を少々お許しいただきたく存ずるわけです。
イエイエ、ディーゼルエンジンでだけでなくガソリンエンジンも、最近は燃費と排ガスの話抜きには語れません。
もはや最高出力も最大トルクも最高回転数も主役ではないのです。

ええ、分かりますとも、オッサンの気持ちは!
しかし中島みゆきさんもこう歌っていたじゃないですか。

♪ 世の中はい~つも変わ~っているから、頑固者だけが~悲しい~思いをする♪  

と。
だから排ガスの話です。




とりあえず、ガソリンエンジンの話です。
厳しかった昭和53年排出ガス規制も、性能の良い三元触媒と電子制御燃料噴射装置の採用によって、規制をクリアしつつも再びエンジンの高出力化が可能となりました。

三元触媒とは、日本人である三元(みつもと)さんが開発し、世界中の自動車メーカーで採用された・・・ってのはウソです。
おそらく3つの排ガス要素を還元、酸化して浄化するので、そんな名前になったとは思うのですが・・・スイマセン、イイ加減です。


cyata 触媒とはこんな形で、ひとことで言えば、マフラーの途中にコイツをくっつけて、中にエンジンからの排気ガスを流し込むと化学反応によって排気ガスがキレイになるという算段です。
こんな場所についています。

三元触媒は、法律によって規制されている排気ガス中のその3つの成分をキレイにするのですが、その3つとは以下の通りです。
  • HC(炭化水素): 燃料の燃えカス
  • CO(一酸化炭素): 閉め切ったガレージなどでエンジンをかけたままにすると、コイツのせいで中毒死してしまいます
  • NOX(窒素酸化物): NOとNO2があります。二酸化窒素は有毒。一酸化窒素にはそれほど強い毒性はないそうですが、空気中で酸素と結合して二酸化窒素になってしまうそうです
さあ、ここで、下の図を見てください。
skyEngine
排気ガス成分別に、三元触媒の効率と、エンジンで燃やされる混合気のガソリンと空気の比率の関係を示しています。
ちなみに、ガソリンと空気の比率を空燃比と呼びます。
グラフ中の「理論空燃比」とは、理屈上ガソリンが完全に燃え尽きる空気の量で、ガソリン1gに対して空気14.7gです。

グラフを読んでみると、縦軸が三元触媒の働き具合です。
上に行けばいくほど、触媒は一生懸命働き、排気ガスをきれいにします。
横軸は空燃比。左は燃料が濃い状態で、右は薄い状態を表しています。
NOXは還元、つまり酸素を取り除いて処理します。
NOやNO2からOを取って、Nにするのです。
ですから当然、酸素が少ない環境(空燃比が濃い)の方がよく反応します。

HCとCOは酸化。酸素を加えて処理します。
HCはHとO2に、COはCO2にするので、酸素がたくさんある環境(空燃比が薄い)方がよく反応します。

このグラフによれば、空燃比が理論空燃比に近い所で、触媒は3つの要素のすべてを高い効率できれいにしてくれるのがわかります。

嗚呼、神はおられました!

いいですか、オッサンの皆さん、よく聞いてください。
ガソリンが完全に燃えきる理論空燃比、つまり燃費と出力のバランスが最も良い空燃比でエンジンを回してやると・・・
いいですか、ココ大事ですよ!
その理論空燃比で燃やしてやると、三元触媒様様は大変効率よく3つの排ガス成分を浄化してくれるのです!
ああ、なんという福音! バケ学の神様はガソリンエンジンに微笑んだのです!


なにをそんなに興奮しているのか、ですって?
人生の辛苦をナメ尽くしたオッサンのアナタにはわかっているはずです。
世の中、大抵のことは、コチラを立てればアチラが立たず。
だいたい、こんなグラフのようになっているのです。
graph1
物事Aを優先させれば物事Bは諦めざるを得ず、物事Bを大事にすれば物事Aはおざなりとなります。
となれば、波風を嫌うオッサンとしては、AとBの交点あたりを狙って、Aにも少し我慢してもらって、Bにも頭を下げて・・・とするしかありません。
コチラを立てればアチラが立たず、アチラを立てればコチラが立たず。

嗚呼、まさに妥協の産物、妥協の人生・・・(涙

悲しむことはありません。
コレが普通です。通常運転です・・・

世の中の大半はこんな妥協で出来上がっているというのに、コト三元触媒に関しては、コチラを立てたらアチラも立つのです。
もう一度、三元触媒のグラフを見てください。

理論空燃比付近で燃やせば、アチラもコチラも立つのです!

これを神のご加護と言わずなんと言いましょう。
私が三元触媒について学んだのは、アイ ワズ エイティーンの頃ですから大昔です。
その頃にはこのありがた味が分かりませんでしたが、歳を重ねるにつれ、人生の経験を積むにつれ、なんとありがたいことかと、足を向けて寝られない気分になりました。



閑話休題
というわけで、排出ガス規制はどんどん厳しくなり各メーカーのエンジニアさんのご苦労もつきませんが、ガソリンエンジンについて神様のご加護により比較的早いうちから解決の目途が付いていたのです。
さて、では今回の本題のディーゼルエンジンではどうだったのでしょうか?


続く

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