マツダ SKYACTIV-D (SH-VPTR型エンジン)

- 第5回 圧縮比を下げてみた -

2014/05/31 公開
2016/05/28 改稿

scooter メカ好きのオッサンに説明の必要はないでしょう。
その昔、高ければ高いほどイイと信じて疑わなかった、あの「圧縮比」です。
さずがに4輪車のエンジンをやったことがあるオッサンは少なくとも、スクーターのエンジンの圧縮比を上げようとしたオッサンなら結構いるのではないでしょうか。

風の中のすばる~♪
砂の中の銀河~♪

遅い! オッサンは思った。
オッサンのヤマハ パッソルはわずか2.3PS。
友人のヤマハ ジョグは4.5PS。
敵うはずもなかった。
オッサンはパッソルを速くしたかった。
しかし、当時高校生のオッサンに、チャンバーを買う金はなかった。
オッサンは考えた。
「そうだ、圧縮比を上げよう。」
オッサンはネジ4本でパッソルのシリンダーヘッドを外し、机の上に紙ヤスリを敷いて無心にヘッドを削った。
「ガソリン臭い!」
オッサンはオカンに怒られた。
苦難の末に組み上げられたパッソルに、オッサンは乗った。
オッサンは思った。

「速くなった・・・ような気がする。」

語~り継ぐ人~もなく♪
吹き~すさぶ風の中へ♪




閑話休題
ちょっと古いデーターですが、参考までに下表を見てください。
トヨタの1600CCエンジンと、ホンダの2000CCエンジンの圧縮比を年代別に並べました。

搭載年 1983 1989 1991 1993 1995 1999
メーカー トヨタ ホンダ トヨタ ホンダ トヨタ ホンダ
エンジ 4A-G F20A 4A-G F20-B 4A-G F20-C
圧縮比 9.4 10.3 10.5 11.0
9.5 10.4 11.7

ガソリンの仕様(レギュラー、ハイオク)などにもよって変わりますが、大体の傾向は掴めるはずです。
最後のF20-CはS2000に搭載されたエンジンなので、ちょっと特別ですが、要は年を追うごとに圧縮比が上がっていることをわかってもらえればOK。
つまり高圧縮比=高性能となります。
ただし、自然吸気のガソリンエンジンではこの辺りが限界らしく、この表から15年経っていても11.0台が上限のようです。
最近では、マツダのP3-VPS型エンジンの14.0:1とか、トヨタの1NZ-FXE型エンジンの13.4:1なんてのもありますが、これはミラーサイクルエンジンなので、直接は比べられません。
ミラーサイクルは、また機会があれば触れます。



とにかくオッサンの常識では高ければ高い方がよいはずだった圧縮比を下げるとはどういうことでしょう?
実は、ディーゼルエンジンでは圧縮比が低い方がよいらしく、理想的には14台だそうです。下表を見ると、上の表とは逆に、新型エンジンが登場するたびに圧縮比が下がっているのがわかります。

搭載年 1991 1993 1997 1999 2003 2007 2008 2009 2012
メーカー ミツビシ トヨタ 日産 マツダ トヨタ 日産 スバル トヨタ ミツビシ マツダ
型式 4M40 1KZ-TE RD28ETi ZD30DDTi MR-CD 1VD-FTV M9R EF20 2AD-FHV 4N1 SH-VPTS
圧縮比 21.0 21.2 21.8 17.9 16.3 16.8 15.6 16.3 15.8 14.9 14.0

こうして見ると、SKYACTIV-Dの圧縮比が如何に低いかがよくわかります。
なぜマツダのエンジニア氏はこんなにも低い圧縮比を達成できたのでしょうか?

さて、話が少々ややこしくなります。
ややこしい話を始める前に、ちょっとだけ復習を。
第1回で、2つのことを覚えてくださいとお願いしました。
1つ目は、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べ、薄い燃料で動いているというこ。
このため、三元触媒が使えないことを第3回で説明しました。
今回は、もう1つの「ディーゼルエンジンでは燃料と空気がよく混ざっていない状態で燃えている」について話します。


ガソリンエンジンでは、吸気途中の空気に燃料を噴射し、その混合気は音速に近いスピードでシリンダーの中に、しかも渦を巻きながら流れ込むので、結構均一に混ざり合います。
一方のディーゼルエンジンでは、軽油の着火温度まで熱くなった空気に燃料を噴射して燃焼するので、燃え始めるときには燃料と空気が混ざり合っていません。

下図はイメージですが、ガソリンエンジンでは空気の分子の中に燃料分子が適度に混ざっている一方、ディーゼルエンジンでは燃料の濃いところと、薄いところに分かれます。

ガソリンエンジン                 ディーゼルエンジン

赤丸: 燃料
青丸: 空気

ディーゼルエンジンで燃料をキチンと燃やそうと思ったら、燃料が散らばって均一になるのを待つしかありません。
あみんも歌いました。

♪ワタシ待~つわ、いつまでも待~つわ♪

かく言うこのワタクシメにも、ほんの短いモテ期がありました。今思えば、あれがワタクシメの人生の春でございました。
しかし、このブサ男に「待つわ」と言ってくださった異性はたいてい○スか○ブで、お待ちいただかなくても結構と思わざるを得ませんでした フエン アイ ワズ トエンティーフォアー。

そして、ワタクシメの意中の異性は、いつまで待っても振り返ってはくれませんでした。
もし、あの頃のワタクシメをディーゼルエンジンの燃焼室に喩えるなら、不均一な燃料が燃焼することなく、完全に均一になるまで・・・どころか、せっかく気化した燃料が冷え切って液体に戻り、ピストン頂部のお皿でタプンタプンいっている状態です。
そう、火が付くことはなかったのです(涙



閑話休題
燃料が均一に散らばるまで燃え出さないようにするにはどうすればいいかといえば、燃焼室の温度を着火点以下にすればいいのです。
着火点とは、火を近づけないのに軽油が勝手に燃え出す温度です。
軽油の着火点は300~400℃。ちなみにガソリンは400~500℃です。

要は、燃えて欲しくないときは温度を300℃以下にして、燃えて欲しいときは300℃以上にすればよいのです。

では、ディーゼルエンジンは、着火温度である300℃以上をどうやって作り出してるのでしょうか?
おっといけない。メカ好きオッサンには失礼な質問ですね。
言うまでもなく、ピストンで吸入した空気を圧縮して温度を上げるのです。
強く圧縮されればされるほど温度は上がります。
で今回は、温度を上げたくないわけですから、圧縮比を下げましょう。
と言うのが、

SKYACTIV-Dの圧縮比の低い理由です。

順番が逆になりましたが、これがディーゼルエンジンが高圧縮比を必要としている理由でもあります。
エンジンに吸入された空気は、ピストンで圧縮される以前にも温度が上がる様々な要因があるのですが、ここでは一旦コッチに置いておくことにします。
とすると、暑くても40℃くらい、寒ければマイナス数十度の外気を300℃以上に上げなければならない。そのため、理論的には14台が最適とされているにもかかわらず、これまでディーゼルエンジンの圧縮比はとても高く設定されていました。

♪ちょっと待って、プレイバック、プレイバック♪

いま、ワタクシメの耳にオッサンが口ずさんだ山口百恵が届きました。
「じゃ、どのメーカーも圧縮比を14にすりゃあいいじゃねェか!」
オッサンのおっしゃる通り、14にすればいいのです。しかし、おいそれとは圧縮比を下げられない理由があったのです。



先ほども説明したよう、真冬の北海道でも吸入した空気を300℃以上に加熱するためには相応の圧縮比が必要だったのです。
逆に言うと、エンジンが冷え切った状態での始動(コールドスタート)でも燃焼室内温度が300℃以上になるように圧縮比が決められていたそうです。
あ、また山口百恵が聞こえました。
「じゃ、なんでマツダや三菱の新しいエンジンの圧縮比は低くできたんだよ?」
ご心配なく。

すべての現象には必ず理由がある!

秘密は、三菱は吸気バルブの早閉じ。マツダは内部EGRです。
今回の主役はSKYACTIV-Dなので、次回はEGRについて探っていきます。

続く

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