最新ガソリンエンジン

- 第2回 点火系 その1 -

2015/08/28 公開

brain 先日、同世代の友人と飲んだときの話です。
しばらく前にホンダ オデッセイのテレビCMに出演していた外国人の俳優が話題に上がりました。
「あんな渋くてカッコいいオッサンになりたいよね~」的な話です。
で、問題なのがその俳優の名前。
顔は問題なく思い出せます。
出演した映画だってわかります。オーシャンズ11やパーフェクト ストーム。
最近ではコーヒーのCMでもよく見かけました。
しかし・・・名前が出てこない。
もちろん、ググればあっという間に答えは出ます。
でも、それはしたくない。
結局、30分近くあーでもない、こーでもないと激論(?)の挙句、友人が言い当てました。ワタクシメ、一敗です。

数日後、今度はワタクシメより10歳ほど先輩との会話で日本人の女優の名前が迷子になりました。
カルピスのCMに出ている可愛らしい女優さんです。
このときは、会話の翌日に「思い出したぞ!」とメールが来ました。ワタクシメ、二連敗。

さらに数日後にはAKBのコの名前が迷子です。
金融会社のCMに出ている、選挙の後に男性アイドルと浴衣姿での写真が出回ってしまったコです。
しかしワタクシメ、ココはがんばり自力で記憶の救出に成功。なんとか三連敗は阻止しました。

で、話は去年に戻ります。
運転中にラジオを聴いていたときの話です。
80~90年代洋楽オムニバスCDのCMです。
CM中では、それぞれ10秒から20秒程度、20曲ほどを連続してかけていました。
当然、独りドレミファドンごっこが始まります。
「グロリアエスティファン アンド マイアミサウンドマシンだ!」
「これは・・・フォリナーのアイワナノウだ!」
「フィルコリンズのカリブの暑い夜だ!」
100点満点とは言いませんが、80点以上はとれました。

毎日とは申しませんが、比較的よく目にするジョージクルーニーや、長澤まさみや柏木由紀は出てこないのに、30年も前のグロリアエスティファン アンド マイアミサウンドマシンはパッと出てくる・・・。
脳ミソとは、ホントに不思議なものです。

何故ソンナ話をしたかと言えば、これから最新ガソリンエンジンを語るにあたり、まずは最新に至るまでの過程のお話をしたいと考えておるのです。
近年の情報であれば、ググれば結構見つかる。しかし30年前の情報となるとそうもいきません。
当時の情報源は雑誌や書籍のみですが、それらだってオー昔のものはトーの昔に処分済み・・・。
となれば、頼りになるのはワタクシメの脳ミソに蓄えられた記憶しかない・・・。
果たしてグロリアエスティファン アンド マイアミサウンドマシンのように、パッと思い出すことができるのか・・・
大いなる不安と共に筆を進めてまいります。




plug 前置きが長くなりました。
本稿、まずは点火系から話を進めてまいります。
メカ好きオッサンの皆様方には言うまでもなく、自動車用ガソリンエンジンはスパークプラグの火花によってガソリンを燃やしています。
このずっと後に触れるつもりですが、研究中の究極ガソリンエンジンにはスパークプラグなしで回転するそうですが、そんな夢のエンジンが登場するのはまだ少し先の話。
オー昔から今日現在まで、ガソリンエンジンの中でスパークプラグがせっせと火花を飛ばしております。
plugPoint もうちょっと細かく見てみますと、火花はスパークプラグ先端の電極間にある1mm程度の空間で飛んでいます。
火花を飛ばすには1.5万~3万ボルトの電圧が必要となります。
でもご存知の通り、クルマのバッテリーは12ボルト。
要求電圧が2万ボルトだとすると、19988ボルト足りません・・・。
coil で、必要になるのが12ボルトを2万ボルトに昇圧させるイグニッションコイルです。
その昔、ボンネットを開けるとこんな部品がついていたのをご記憶のオッサンもいらっしゃるはずです。
このイグニッションコイル、6気筒エンジンが6,000rpmで回転しているときには1分間に18,000回も2万ボルトの電圧を作り出しています。
1分間に18,000回なんて、ちょっと想像を絶する仕事量ではありませんか!
それをエンジンルームの片隅で、薄っすらとほこりをかぶりながらも与えられた仕事を黙々とこなす、とても健気な部品です。
今のクルマでは形が変わってしまっているうえに、そもそも見ることのできない位置に取り付けられているので、残念ながらこのイグニッションコイルの姿を目にすることはありません。

さて、このイグニッションコイル。中身は2個のコイルを1個の鉄棒(鉄心)に巻きつけたものです。
さあ、ここからしばらく理科の時間です。



いったいナニゆえに自己誘導作用が、ドーいった訳で相互誘導作用が起こるのかは、もはや忘却の彼方・・・。
しかしとにかく、2個のコイルと鉄心があれば、12ボルトを2万ボルトに昇圧してスパークプラグに火花を飛ばすことができることがわかりました。
ですが皆さん、12ボルトをたかが12ボルトとナメないでください。
エンジンの高圧になったシリンダー内では12ボルトでは火花を飛ばすことはできませんが、フツーの大気中ではバチバチに飛びます。
たとえばバッテリーの端子を外すときにはバチッといいますし、
バッテリー端子を外さずに整備をしてしまって、不注意にもメガネレンチと車体フレームとバッテリー間に電気回路を成立させてしまえば、メガネレンチは溶けてフレームに溶着させてしまうほどのパワーを持っているのです。

さて、次の問題は、上記アニメーション内のスイッチです。
一体誰が、いつ、スイッチの断続をしているのでしょうか?
そこで登場するのがコンタクトブレーカー。
文字通り、CONTACT(接続)をBREAK(壊す)もので、通称「ポイント」です。
このポイント、エンジンのバルブを開閉するカムシャフトと同回転するシャフトによって断続されます。(クランクシャフトから回す機種もありますが、その場合は1/2に減速)
作動は以下の通り。



カムシャフトと同期して回転するシャフトによってコンタクトブレーカーが断続され、その断続によってイグニッションコイルが高電圧を発生してスパークプラグが点火される様子が解るかと思います。
これらの仕組みによって、バッテリーの12ボルトを数万ボルトに昇圧して、火花を飛ばしエンジンは回る。メデタシ、メデタシであります。

しかしまだ問題は残ります。
「誰が、いつ、火花を飛ばすか?」の「誰?」については答えが出ました。
では、「いつ?」です。
ココからは話が少々ややこしくなります。
まず、ガソリン4サイクルエンジンの動きの復習をしましょう。


<

ご存知の通り、4サイクルエンジンは、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を繰り返しています。
その中で、ピストンが最も高い位置になったときを上死点、反対に最も低い位置になったときを下死点と呼びます。
さらに、圧縮行程での上死点を圧縮上死点と呼びます。
で、スパークプラグの点火は、ガソリンの混ざった空気が圧縮されたところで行いますので、圧縮上死点で点火を行うことになります。
のですが、出来る限りパワーを引き出すためには、圧縮上死点付近において、ピストンが上昇から降下に転じたタイミングでシリンダー内の圧力が最大になることが求められます。
ピストンが上昇中に圧力が上がってしまうと、当然エンジンの回転を止めようとする力が働いてしまいますし、ピストンが上死点よりずっと下がった位置で圧力が上がっても、せっかくの爆発圧力をエンジン回転に活かすことができません。
では、ピストンが最も高い位置にあるタイミングで点火すればよいのかと言えばそうでもない。
と申しますのは、スパークプラグが点火 → ガソリンと空気の混合気が燃焼開始 → 燃焼がシリンダー内に伝播 → シリンダー内圧力が上昇 という作用には一定の時間がかかるのです。
なので、上死点でスパークプラグに火花を飛ばしても、シリンダー内の圧力が上がるころにはピストンは遥か下方で、せっかくの爆発圧力をウマくピストンに伝えることができません。
そこで、ピストンが上死点の手前にあるときに火花を飛ばします。
この点火のタイミングをBTDC5°などと表します。
BTDCはBefore Top Dead Center:上死点前で、BTDC5°はクランクシャフトの回転角度で5°分、上死点より早いタイミングでスパークプラグに点火することを意味します。

さてさて、これで点火系はバッチリです。
誰が、いつ、どうやって火花を飛ばすのかはお解りいただけましたネ。
・・・となっては話が面白くありません。
まだまだ続きがあります。
厄介なのが点火タイミングです。
たとえば、エンジン回転数が2000rpmのときに点火タイミングがBTDC5°で最適だったとしましょう。
ですが、アクセルを踏めばエンジン回転数は上がります。
では、はたして、エンジン回転数が4000rpmになったときも点火タイミングはBTDC5°のままでよいのでしょうか?
回転数が倍ですから、ピストンも倍の速さで動きます。
ところが、「スパークプラグが点火 → ガソリンと空気の混合気が燃焼開始 → 燃焼がシリンダー内に伝播 → シリンダー内圧力が上昇」という作用は化学と物理のオハナシですから、コチラの都合で速くなったり遅くなったりはしてくれません。
なので、2000rpmのときにはちょうど良かったBTDC5°でスパークプラグに点火しても、4000rpmではシリンダー内の圧力が最大になる頃にはピストンは遥か下方まで移動してしまっている。
アクセルを踏んで、飛び上がるタコメーターの針と高まるエキゾストノートに胸を躍らせ・・・なのにエンジンの力はスカスカ・・・では興ざめです。
逆も同様で、4000rpmに合わせて点火タイミングを設定すれば、こんどは2000rpmの時にエンジンはスカスカ・・・。
そう、誰かがエンジン回転数に合わせて点火タイミングを調整しなければならないのです。
いったい何者が・・・?
という話は次回に続きます。

続く


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