最新ガソリンエンジン
- 第8回 点火系 その7 -
2015/12/30 公開
1985年、「エリーゼのために」と共に、威風堂々と7thスカイラインが姿を現しました。
速度感応式のオートスポイラー、セラミックターボ、ハイキャスなど、最新技術を搭載しての登場です。
これらの派手な新技術に隠れ、ひっそりと採用されていのがダイレクト イグニッション システムです。
このダイレクト イグニッション、なんとか命脈を保っていたデスビを完全に絶滅させました。
これまで何度か申し上げてまいりましたが、
初期のデスビは、その名の通り配電器であるのですが、その役割に加え高圧電気を作り出すための一次電流の遮断、進角遅角の3つの機能を持っていました。
ですので、当時はエンジンルームで独特の存在感を放っていたのですが・・・
ところがクライスラーが電子制御点火装置を開発して以来、デスビからは一次電流遮断と進角遅角機能がはぎ取れ、
配電機能しか持たないデスビは、もはや「ディストリビュター」という独立した部品ではなく、シリンダーヘッドの一部分のようになってしまっていたのです。
まるで使わなくなった機能、真っ暗闇の洞窟に住みついた生物の目とか、飛ばなくなった鳥の羽根とかが、進化の過程で退化していく様子を見ているようではありませんか!
そしてついに、ダイレクトイグニッションの登場によって、デスビも、デスビにつながるプラグコードも消え失せました。
オイオイオイ、プラグコードまで無くしちまって、ドーやってプラグに火を飛ばすんだよ!
と苦情をおっしゃるオッサン方、ごもっともで御座います。
わかった! Wi-FiかBluetoothで飛ばすんだな!
と感づいたオッサンは、きっとスマホを苦も無く使いこなしていることでしょう。
でも違います。
答えはこうです。
(7thスカイラインに搭載されたRB20エンジンは6気筒ですが、下図は4気筒で済ませてあります。あらかじめご了承を)
イヤ~、スッキリしちゃいました。
これでエンジンルームを這いずり回る、太くて力強いプラグコードが消し去られました。
スパークプラグに火花を飛ばすための高電圧の源であるイグニッションコイルも、見えないところに追いやられました。
イグニッションコイルで作られた高電圧を、各スパークプラグへ健気に配り続けるデスビも排斥されました。
♪思い出~つまァった この部屋を~ 僕も~出てゆこう~
と歌ったのはチューリップです。
住み慣れた部屋から引っ越すときに、一切の家具が持ち出されてガラーンとした部屋を見ているような寂しさではないですか!
♪ドアに~ 鍵をおろしたとき~ 何故か~ 涙がこぼれた~
さて、涙を拭いて、ダイレクトイグニッションの利点を考えてみましょう。
まず、プラグコードが不要になった件です。
- プラグコードは大きな電気抵抗です。これが短くなればなるほど電気抵抗が小さくなって送電ロスが減り、スパークプラグに強い火花を飛ばすことができます。
- プラグコードは、古くなってくるとコードの被覆にヒビが生じ、特に雨の日など湿気が多きときにはこのヒビから電気が漏れてエンジン不調となります。
こういった耐久性も改善されます。
次にデスビをなくした利点です。
- デスビがなくなったことで、点火タイミングをシリンダー毎に制御することができるようになります。
前回のノッキング制御をご記憶でしょうか?
ノッキングが起こってないときには点火タイミングをドンドン早めて、ノッキングが発生したら遅らせる制御です。
デスビ付きのエンジンでは、この進角、遅角をすべてのシリンダーで一斉に行わざるを得ません。
1番シリンダーでノッキングが発生した場合、1番も2番も3番も4番も、全シリンダーで遅角するのです。
ところがダイレクトイグニッションでは、これをシリンダー毎に制御できるのです。
1番シリンダーでノッキングが起これば、1番シリンダーのみを遅角します。
遅角することはエンジン効率を下げることですから、効率を下げる必要のない他のシリンダーは進角させ続けられるので、出力、燃費に有利です。
このためには、ノッキングが起こっているシリンダーを判別しなければなりませんので、ノックセンサーは各スパークプラグの座金部に取り付けられていました。
どうです? イイこと尽くめでしょう。
7thスカイラインが登場して、はや30年・・・
ええっ! ウソッ! そんなに経ってね~べッ?!
7thって、ついこの間とは言わねえけど、そんなに昔のはずじゃ・・・
計算してみましょう。
2015 - 1985 = 30
間違いなく、30年前です・・・
泣くな、オッサン!
泣くな、オレ!
ワレワレの青春は、もはや歴史の教科書に載るほど昔なのだッ!
話を戻します。
クライスラーの電子制御点火装置をファースト・インパクト、ダイレクトイグニッションの登場をセカンド・インパクトとすると、この30年の間にサード・インパクトと呼べるような劇的な変化はありませんでした。
とは言うものの、制御の緻密さはけた違いになりました。
たとえば、初期のダイレクトイグニッションでは各シリンダーに備えられていたノックセンサーは、今では1個または2個しか備えていません。
先祖返りしてシリンダー毎の制御をやめたわけではなく、コントロールユニットがクランクシャフトの回転角度を精密に監視しているため、ノッキングが起こったタイミングと、クランクシャフト角度を比較して、どのシリンダーでノッキングが起こっているかを判別できるのです。
また点火の回数も、かつてはエンジンの燃焼行程毎に1度だけ火花を飛ばしていましたが、エンジン作動状態によって複数回火花を飛ばしたりもします。
たとえば、エンジンが暖まっていない状態では、混合気を確実に燃やすため、強い火花を1回だけ。
エンジンが暖まった後は、小さい火花を連続して複数回飛ばす、などという制御も行っています。
これは点火系に限った話ではありませんが、コントロールユニットは各シリンダーの出力も監視しています。
たとえば1番シリンダーのスパークプラグが点火され混合気が燃焼、シリンダー内圧力が高くなったとき、クランクシャフトの回転は加速されます。
その後、次のシリンダーが燃焼行程に入るまで、クランクシャフト回転は減速されます。
運転していて実感することはありませんが、同じエンジン回転数の中でもクランクシャフトは上記のように加減速を繰り返しているのです。
この加減速を、コントロールユニットは監視してます。
「あれ? 他のシリンダーに比べて、3番シリンダーだけ加速が弱くね? こりゃ、3番シリンダーにトラブルありだな・・・」
などと判断しているのです。
このような緻密な制御が行われていることを知ると、デスビも、コンタクトブレーカーも、機械式進角装置も。
アレッ?
お呼びじゃない?
ああ、お呼びじゃないッ!
コラまた失礼しました~!
と、ならざるを得ませんね・・・。
21世紀になってすでに15年が経ちました。
もはやデスビやプラグコードが存在しているのは、クラシックーカー愛好家のガレージ内か、自動車博物館のみとなりつつあります。
そう、世の中的には、デスビもプラグコードも、博物館に鎮座するティラノサウルスの化石となんら変わることがないのです。
いや! 違います。
もう一箇所だけありました。デスビやプラグコードの存在する場所が!
それは・・・
我々オッサンの記憶の中です・・・ナンチャッテ
これにて点火系は完結です。
次回から燃料系がスタートです。
続く
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