最新ガソリンエンジン

- 第6回 点火系 その5 -

2015/11/23 公開

ic 小銃にはセミオートとフルオート、クルマのシートにはセミバケットとフルバケット、スーツにはセミオーダーとフルオーダー。
“セミ”があれば“フル”があるのが世の習わしであります。(←例外多数。ツッコマナイデ)
その習わしに沿って、セミトランジスター点火方式は、あっという間にフルトランジスター点火方式に取って代わられました。

セミトラ式では、コンタクトブレーカーに流れる電流を小さくすることでバチバチと飛ぶ火花を減らし、接点の焼損を防ぐことに成功しました。
しかしながら、接点は相変わらずパッチン、パッチンと高速で衝突を繰り返していますので、接点の摩耗を減らすことにセミトラ式はナンの効果も持ちません。
そのため、エンジニア達はナンとかコンタクトブレーカーに替わるモノを探した。
で、思いついたのが下のアニメーションです。



さあ、オッサンの皆様方、ご記憶ですか?
数十年も前、青い果実のようであった中学生の頃に習いましたよね。
磁石がつくる磁界の中を導体が移動すると電流が流れる。

ファラデーの電磁誘導の法則

です・・・

白状します。
エラそうに語るワタクシメですが、

「ファラデー」なんて名前、全然、すっかり、完璧に忘れていました。

この件でググってみて思い出したまでの話です・・・オハズカシナガラ

で、ピックアップコイルです。
コンタクトブレーカーを開閉させるカムの代わりに、一カ所だけポコッと飛び出した回転する円盤を取り付けます。ローターです。
そのポコッに触れるか触れないかの位置に導線を巻いた鉄棒を取り付ける。
エンジンが回転し、ローターのポコッが鉄棒に近づくと導線に電気が流れ、ポコッが遠ざかると電気が無くなります。
この電気の断続でトランジスターのON/OFFを制御すればスパークプラグに火花が飛ぶわけです。

さあ、これで接点がなくなりました。
70年代オッサンのクルマも、何千キロ乗ろうと接点が焼けたり擦り減ったりする心配がなくなり、安心してクルマを使うことができます。
そして同時に、愛好家のオッサンにとっては、接点を磨き、点火時期を調整するとエンジンの調子が良くなるという楽しみが奪い去られたことになります。
メデタシ、メデタシ・・・なのか・・・?



さて、信頼性、耐久性に問題を抱えた機械装置であるコンタクトブレーカーを死に追いやったクライスラーのエンジニアはさらに考えた。
1975年のことです。

アレッ、もう進角装置はイラネんじゃね?

フルトラ化したところで、エンジンに吸い込まれた混合気の燃焼する時間が短くなるわけではないので、進角装置が不要なわけではありません。
クライスラーのエンジニアが思いついたのは、機械的な進角装置をなくすことです。
つまりこうです。↓
ign11

ア~ァ、ついに出てしまいました、マイコン(涙

もちろん、ウインドウズでいう「マイコンピューター」ではなく、「マイクロコンピューター」のマイコンです。
IBMの初代IBM PCが登場したのは1981年、初代マッキントッシュが1984年なので、1975年と言えば電脳社会の黎明期の奔りとなりましょうか。
その黎明期の奔りに、クライスラーが世界初のエンジン電子制御システムとしてリーン バーン エンジン コントロールシステムを発表しました。

クランクシャフトセンサーは、上のアニメーションのピックアップコイル同様の仕組みではありますが、エンジン回転数とクランクシャフトの角度を検知します。
ローターの歯が一部欠けているのは描き忘れではなく、ローターが1回転する間に一カ所だけ信号が入力されないことで、マイコンは「今、上死点だ」などと判断します。
アクセル開度センサーは、ドライバーがアクセルペダルを踏み込む量を電気信号に置き換えてマイコンに送ります。
マイコンは、これらの信号をあらかじめプログラムされた下のような3次元マップに照らし合わせて点火時期を決定します。



ちなみに点滅している赤線は、エンジン回転が3,000rpm、スロットル開度が60%のときには点火時期は圧縮上死点前18度になることを表しています。



点火装置を電子制御化することによって、トラブルの発生源であったコンタクトブレーカーも、固着して進角しなくなる遠心ガバナー進角装置も、ゴムが切れて動かなくなる負圧式進角装置も必要なくなりました。
まっこと、メデタシメデタシの話ではあります。
しかし、エンジニア達の野望はまだまだ収まりません。
電子制御化されたことで、機械式では不可能であった制御を取り入れられるようになったのです。
はたしてエンジニアの野望とは・・・?
続きます。

続く


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