最新ガソリンエンジン

- 第3回 点火系 その2 -

2015/09/09 公開

apart 前回の点火系 その1で、30年も前の洋楽の一部を聴いただけで、アーティスト名と曲名がパッと出てきたというお話をしました。
アーティスト名と曲名こそはパッと出てはきましたが、その他のコトとなるとどうでしょう?
2~30年も経ってしまうと、色々な記憶があやふやになってきます。

オッサンの皆様方には、学生時代に住んでいた街を久しぶりに訪れてみたという経験はございませんでしょうか
ワタクシメは、卒業して20年ほど経った頃、それをやったことがあります。
所用で近くまで行ったついでではあったのですが、それでも無事アパートまでたどり着くことができました。
たしか福ナントカ荘という名で、外階段、モルタル塗の典型的なショーワの安アパートでした。
残念ながらというか、当然というか、平成の世にはソレは存在しておらず、アパート前面にあった砂利駐車場と共に、数件の新しめの住宅に変わっていました。
ついでにとばかりに、アパートの近くにクルマを停めて、街を散策してみると不思議なことが起こりました。
最初の異変は駅までの道のりです。

大通りを使った正規ルートであれば、迷うことはありません。
しかしいつも使っていた、住宅街のクルマも通れないような細道をつたった近道では、
「アレッ、こんなところに交差点があったかな・・・?」 といった具合に、記憶の中の地図と、実際の風景にズレが生じたのです。
さらに、いつも買い物をしていたイトーヨーカ堂とダイエーの位置が入れ替わっていました。
アパートから南に向かって数分歩くとあるのがイトーヨーカ堂で、東に向かうとダイエーだったのですが・・・それが逆になっているのです!
言うまでもなく、交差点は新たに作られたわけでなく、ワタクシメの記憶から消去されていただけですし、
入れ替わっていたイトーヨーカ堂とダイエーの位置はワタクシメの記憶の中でのみです。

ナニゆえにそんな昔話をしかたと申せば、言い訳の布石です。

今回お話しいたしますのは、エンジンの運転状態に合わせ点火時期を調節する仕掛けなのですが、
この機械仕掛けの仕組み、ワタクシメがクルマと触れ合うようになった1980年代の後半には、もはや絶滅状態でした。
かろうじてオートバイや、当時としてもかなり古めのクルマについていて、チョコットだけイジッたことがある程度のシロモノです。
なので、その仕組みの理屈は覚えてはいても、実際の詳細な形状となると・・・甚だ自信がございません。
ナンと言っても大規模店舗であるイトーヨーカ堂とダイエーの位置が入れ替わってしまうほどですから、小さな部品の位置が違っていても何ら不思議はございません。
つまりナニか言いたいのかと申せば、

細かいトコは勘弁してチョーダイ!!


と、言うことでございます。
もちろん、メールにての間違いのご指摘は大変ありがたく頂戴いたしますが、
ウソつき呼ばわりだけはご勘弁いただければと、皆様のご厚意に甘えさせていただく所存でございます・・・。



さて、またしても前置きが長くなりましたが、ココからが本題。
エンジン回転数によって点火時期を調節する仕組みについてです。

点火時期を調節する機構を進角装置と呼びます。
クランクシャフトの角度に対して、点火タイミングを進めるからこう呼ばれると思うのですが、
進めることもあるのですから、遅らせることもあるのに、遅角装置とは呼ばず進角装置と呼ぶのはポジティブで大変ケッコーな話です。
で、エンジン回転数によって進角させる装置は「遠心式ガバナー進角装置」です。
構造は以下の通り。



ちなみに、上図のカムシャフト、カムシャフトと一体のプレート、ガバナー、スプリングは、エンジン回転数の1/2の高速で回転しています。
アニメーションでそんなに速く回転させたら、ナニが起こっているのかサッパリなので、回転を止めた状態でお見せします。
どうか皆様の脳内で補完しながら、下の作動のアニメーションを観てください。







これで、エンジン回転数の変化による点火時期の調整がバッチリになりました。
しかしながら、これだけではマダ足りなかったのです。

ナニが足りないのか、に進む前に、4つの言葉を覚えて頂きたく存じます。
  • 高回転
  • 低回転
  • 高負荷
  • 低負荷

もちろんエンジンの話です。
高回転と低回転については特に説明は不要ですよね。
5,000rpmとか6,000rpmならエンジン高回転、1,000rpmとか2,000rpmならエンジン低回転です。
で、高負荷と低負荷です。
エンジンの場合、「負荷」 イコール 「アクセルペダルの踏み込み量」 と考えます。
ここでは、もちょっとカッコよく、「アクセルペダル踏み込み量」を「スロットル開度」と呼ぶことにします。
この4つを組み合わせることで、エンジン運転状態を表すことができます。

・エンジン高回転、高負荷時
アクセルを床まで踏み込んで、エンジンをレッドゾーン付近まで回したような状態です。
仕事で言えば、一番やる気の出る木曜日に山のような仕事をこなしている状態です。
アドレナリン出まくりで、次から次へと仕事が片付いていきます。

・エンジン低回転、低負荷時
田舎の一本道を、5速ギア、1,500rpmでトコトコ走っているような状態です。
仕事で言えば、一通りの仕事を片付けてしまった後の、やる気の出ない金曜の夕方。
「仕事も無いし、早く5時半にならないかな~」です。

・エンジン高回転、低負荷時
赤信号で、隣に並んだクルマの助手席に美人が乗っていたときです。
いいトコ見せようと、青に変わったっ瞬間に急加速。
1速 → 2速 → 3速とシフトアップして、さあ4速へ、というときに先の信号が赤に。
アクセルは放しますが、エンジンは6,500rpmからゆっくり下がり高回転のまま。
仕事で言えば、大仕事が成功裏に片付き、まだアドレナリンは出まくりなのに、仕事はない。
きっとアナタは大きな充足感に包まれていることでしょう。

・エンジン低回転、高負荷時
高速道路を6速、100km/hで走行中、上り坂に差し掛かります。
このままでは車速が落ちて渋滞のもとになるので、アクセルを踏み込みます。
オートマなら勝手にシフトダウンするので、マニュアルでシフトダウンをサボった場合の話です。
そんな状態では、アクセルをいくら踏んでもクルマはすぐには加速しません。
スロットル開度は大きいのに、エンジン回転数は低いままの状態です。
仕事で言えば、全然やる気の出ない月曜の朝なのに、どういうわけか仕事が山のようにある・・・想像しただけでゾッとする話です。


さて、上記4つの状態のうち、最も問題があるのはどれでしょう?



正解です!

連休ボケのまま出社したら山のような仕事が待っていたときですね。
エンジンも同様で、低回転高負荷時には点火時期に問題が生じます。

この「点火系」の後に続く予定の「燃料系」で詳しくお話しするつもりですが、
いまではオートバイを含めて国内のクルマでは完全に絶滅したキャブレーターの話です。
エンジンにガソリンを供給するには、エンジンが空気を吸い込むときに生じる空気の流れを利用します。
流れる空気は、付近のモノを吸い寄せますので、そこにガソリンを置いておけば、流れる空気がガソリンをまき込んでエンジンに供給される算段です。
空気の流れが速ければ早いほど、周りのモノを吸い寄せる力も強く、ガソリンもたくさん供給されます。

で、エンジン低回転高負荷時です。
エンジン回転数が低いので、吸い込まれる空気の流速も遅い。
これも後で詳しくお話しする予定ですが、スロットル開度が大きくなると、さらに流速が遅くなります。
と言うことは、エンジンに供給されるガソリンの量も減る。
エンジンに吸い込まれる混合気の、ガソリンと空気の割合を空燃比と呼びますが、
エンジン低回転高負荷時には、この空燃比がグッと低くなる。
「混合気が薄い」とも言います。

前回、お話しした物理と化学の話、
「スパークプラグが点火 → ガソリンと空気の混合気が燃焼開始 → 燃焼がシリンダー内に伝播 → シリンダー内圧力が上昇」
はご記憶でしょうか?
神様が作った法則なので、コチラの都合では変わらない、ということでした。
ところが混合気が薄くなると、コレに要する時間が長くなってしまうのです。
となると、混合気が薄くなるエンジン低回転高負荷時には、長くなる燃焼に要する時間を見越して、点火時期を早めなければなりません。

これをやってくれるのが、負圧式進角装置。
英語で言うと、バキューム アドバンサー(Vacuum Advancer)。
何故、英語で言ったかと申せば、
ワタクシメ、数ある英語の自動車用語で、このバキューム アドバンサーの音が最もカッコいいと思っているのです。
意味ではないですよ、あくまで「音」だけの話です。

バキューム アドバンサー!

なんだか、戦隊モノのヒーローが最後に使う武器の名前のようではありませんか!

もし、今、アナタにストレスが溜まっていて、かつ、周囲に人がいなければ、
両脚を肩幅の1.5倍くらいに開き、僅かに腰を落として、こぶしを強く握り、両腕を胸の前でクロスさせる。
そしてこう叫びます。

バキュゥゥゥーム アドバンサァァァー!!

如何でしょうか?
スッキリしましたか?



閑話休題
diaphragm 負圧式進角装置に使われるのはコレ→です。
ダイヤフラムと呼ばれる部品で、作動は以下の通りです。
ちなみに負圧とは、エンジンが空気を吸い込むことによって吸気管内に発生するマイナスの気圧のことです。


水色から青に変化する部分はエンジン吸気管で、色の濃さはエンジンの吸気が発生する負圧の大きさを表しています。
色が濃くなるほど負圧が大きくなります。
一方、ダイヤフラム内のゴムで仕切られた反対側には大気圧がかかっています。
エンジンの負圧と大気圧の差と、スプリングの力の釣合いによってゴムが移動し、ゴムに取り付けられたロッドも動きます。
このロッドの先に、遠心ガバナー式進角装置で出てきた、コンタクトブレーカーが取り付けられたプレートを接続します。
こんな感じです。




ココからは余談になりますが、昔のクルマのボンネットの中には、このダイヤフラムが無数にありました。
今では電気で制御するモーターにその座を奪われてしまいましたが、エンジンやトランスミッションのナンチャラバルブを機械的に作動させるには、当時はこのダイヤフラムしかありませんでした。

たとえばクルーズコントロールです。
高速道路を走行中に、ポチッとスイッチを押すと車速を維持してくれる便利なアレです。
弊サイトのダイレクト アダプティブ ステアリングの章で触れたように、今や(と言うか、かなり前から)スロットルバルブは電気モーターによって作動させられているので、クルーズコントロールの車速維持もとてもスムーズです。
ちょっとでも車速が落ちると、僅かにスロットルを開いてそっと加速。ちょっとでも車速が上がれば、僅かにスロットルを閉じてそっと減速。
乗員を不快にさせない、二重丸をあげたいくらいのシステムです。

cruise ところがオー昔は、このスロットル制御をダイヤフラムでやっていました。(右図)
ダイヤフラムと吸気菅の間にあるパイプに電磁弁(ソレノイドバルブ)を設置し、車速が低くなるとソレノイドバルブに電気を流してバルブを開き、ダイヤフラムが作動してスロットルバルブを開けて車速を上げる、という仕組みでした。
なので、今のクルマのように繊細な制御はできません。
ソレノイドバルブのONかOFFだけです。
車速がある程度落ちると、パチンとソレノイドバルブが作動する。
すると負圧がダイヤフラムにかかってロッドがグッと引かれ、スロットルバルブがガバッと開き、クルマがグワッと加速する。

悪いことに、その昔はこのクルーズコントロールは高価格車にしかついていませんでした。
つまりそれは、エンジン排気量の大きな車にしか付いていなかったことを意味します。
なので、車速が落ちると大排気量の大トルクを活かし、フロントノーズが持ち上がるほどの急加速。
車速が設定速度に達すると、今度はスロットルバルブをパタンと閉じる。
そりゃもう、アップダウンの激しい高速道路なんかじゃトテモトテモ・・・
常に頭が前後に揺さぶられ、乗り物に弱い人なら車酔い間違いなしか・・・といったシロモノでした。



閑話休題
ここまでで、スパークプラグに火花を飛ばし、エンジン回転数とエンジン負荷によって点火時期を調整するまでたどり着きました。
しかし全部スパークプラグが1本、単気筒の話でした。
次回は、この火花を4つとか6つに分ける、ボンネットの中ではかなり目立っていたアイツの話です。

続く


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