ハイブリッド車のまとめ

- 第6回 スズキのハイブリッド -

2017/04/12 公開

jam カーラジオから、抑揚のない女性の声が響きます。
「東名高速下り線、伊勢原バス停付近、××キロポストを先頭に25キロ、中央高速下り線、小仏トンネルを先頭に30キロ・・・」
この状況で、溜息とアクビ以外に出るものがあったら教えてほしいものです。
関東近郊にお住まい以外の方には喩が分かりづらく恐縮ですが、要は渋滞です。
お盆やGW、年末年始の行楽地へ向かう渋滞、朝夕の幹線道路の渋滞、工事や事故による渋滞、どれもこれも不快でつらいものです。
特にワタクシメのようなオッサンかつMT信者にとって、渋滞は苦行でしかなく、1時間も渋滞の中にいると左大腿部の裏側が攣りそうになってきます。
かと言って、たまに決まる電光石火のようなダブルクラッチ&シフトダウンの爽快さや、時計仕掛けのように正確無比なヒール&トーとコーナー進入の充足感を手放すわけにはまいりません。
筋力の衰えと、それでも手放せないMTの魅力の狭間でココロが揺れ動くオッサン・・・
そんなオッサンに、もしかしたら将来的には・・・とはかない夢を見させてくれるハイブリッドがスズキから登場しました。



S-エネチャージ

suzuki1 5代目ワゴンRの後期型から搭載されたのがS-エネチャージです。
俳優の渡辺謙さんを起用したテレビCMで、ずいぶん推していましたスズキのエネチャージとS-エネチャージ。

減速時にのみオルタネーターで回生発電するのがエネチャージ。
ですので、エネチャージはハイブリッドではありません。

一歩進めて、オルタネーターをスターターモーター代わりにしてアイドリングストップからの再始動をさせ、また、加速時にオルタネーターを駆動モーターとして加速力をアシストするのがS-エネチャージ。
ですので、S-エネチャージはマイルドハイブリッドということになります。
おおよそ、日産 セレナのS-HYBRIDと同じ構造ですが、セレナが鉛バッテリー2個搭載しているのに対し、S-エネチャージでは鉛バッテリー1個とリチウムイオンバッテリー1個を搭載しています。
(S-HYBRIDについてはコチラが詳しいのでご参照ください。)

このオルタネーター(駆動モーター)は、最高出力2.3kW、最大トルク50N・m。
ガソリンエンジンは、最高出力38kW、最大トルク60N・m。
一方、新型セレナのオルタネーター(駆動モーター)は1.9kW、48N・mで、エンジンは110kW、最大トルク200N・mです。
このスペックを見ると、ワゴンRの方がよりハイブリッドらしいと言えるかもしれません。
ただし、オルタネーター(駆動モーター)が駆動力を発生するときは、その分、エンジン出力を絞る制御だそうなので、燃費はよくなるけど力強い加速となるわけではないようです。


ソリオ ハイブリッド

suzuki2 2016年11月に4代目ソリオにハイブリッドが追加されました。
が、ちょっと複雑です。
そもそも4代目ソリオのデビューは2015年で、この時点でS-エネチャージ方式のハイブリッドが用意されており、こちらの装備名は「ソリオ マイルドハイブリッド」。
これから紹介するハイブリッドを備えた、2016年に追加されたのが「ソリオ ハイブリッド」。
同一車種に2種類のハイブリッドシステムが存在するということですね。チョットワカリヅライ・・・・
なので、2016年追加分は、ここではストロングハイブリッドと呼ぶことにします。
さて、このスズキのストロングハイブリッド、ちょっとオモシロイ。
トヨタのTHSを除けば、他社のハイブリッドはエンジン + モーター + (CVT、ステップ式AT、またはDTC)という構成なのですが、
スズキのは、エンジン + AMT + モーター となっています。
AMTとは自動手動変速機で、マニュアルトランスミッションのクラッチ操作、変速操作を機械にやらせるシステムで、スズキではAGS(オート ギア シフト)と呼ばれています。

ハハ~ン、ステップATやCVTじゃなくて、スズキ得意のAGSを持ってきたのがミソだな・・・
と、独り言ちたオッサン、鋭くありません!
ミソはモーターの位置なのです。
日産のデュアルクラッチコントロールと比べてみましょう。
suzukiHV1
ご注意ください。日産と比べてスズキのシステムが優れていると言っているわけではありません。
日産のは、コレはコレできちんと成立しています。
スズキの場合、モーターを出力側に置くことでAMTの最大の弱点を補おうという狙いがあるのです。

どう言うことでしょうか?
MTで想像してみてください。
信号待ちから1速で発進、
車速がある程度まで高くなったらクラッチを切って2速にシフトチェンジ、再びクラッチを接続。
という手順になります。
このクラッチを切っている間、エンジンの駆動力はタイヤに伝わらず、加速感が途切れます。
MTならいいです。
ドライバーが自分でクラッチを切るのですから、加速感が途切れるのは百も承知。
不快でもなんでもありません。(ただし同乗者は不快。助手席にメカケを乗せたら、シフトチェンジは丁寧にネ!)
ところがAMTの場合、機械が勝手に判断してシフトチェンジし、その度に加速感が変化し、不快極まりない。

そこで、スズキのエンジニアは考えた。

クラッチが切れている間、モーター回せばイイんじゃね?

をを、なるほど!
理にかなっています!
クラッチを切ってエンジンの駆動力が途切れたときに、加速力が一定になるようモーターの駆動力を発生させる。
考えたものです(^_^)/

でもコレ、制御が大変そうです。
自動車雑誌やWeb上の試乗記に目を通しますと、「アルトのAGSよりはマシだけど・・・」という感想も見受けられます。

近年に発売される新型車のパワステは軒並み電動パワステです。
電動パワステが一般的に採用されるようになったのは20年近く前でしょうか。
理由は燃費です。
当時は小型車、軽自動車向けでしたが、この頃の電動パワステは相当ナニでした。
操舵力は途中で変わってしまうし、素早い転舵についてこれなかったし、路面からの情報は戻ってこないし・・・

しかし現在では大分改善されたようです。
それはひとえに、世界中の自動車メーカーが部品メーカーとも協力し、改善に努めたからです。

しかしAMT + モーターのハイブリッドは、現時点ではスズキしか採用していないし、恐らく今後もスズキだけでしょう。
となると、改善もスズキだけしかやらない・・・。



ソリオ ハイブリッドの仕組みを知ったワタクシメはちょっとした夢を見ました。
多くのメーカーがAMT + モーター式ハイブリッドを採用し、一生懸命改善し、煩型のオッサンも「これならOKさ!」という程度までイイものになる。
で、どこかのメーカーが、それほど車体が大きくないスポーツセダンにAMT + モーターのハイブリッドを採用する。
クラッチペダルも、シフトレバーも、MTのまま残し、MT/ATモードスイッチで切換え。

嗚呼、夢のようなクルマじゃないですか!

これならATしか運転できない奥方もOKですし、オッサンが運転したって渋滞はラクラク!
不快なシフトアップだって最小限!
ハイブリッドですから、環境コンシャスな人から後ろ指を指される心配もありません。

でも、そんなクルマは現れません。

別のハイブリッドシステムを持っている他メーカーがわざわざAMT + モーターのシステムを採用するわけもありませんし、
スズキが大枚をはたいて、煩型オッサンが満足するほどこのシステムを熟成させるとも思えません。
そして何より、そんなクルマつくったって、煩型オッサン以外は誰も買いません、ので、誰も作りません。

ハァ―・・・
とため息が出るのはなにも渋滞の中だけとは限りません・・・

この記事の冒頭で「夢のあるシステム」とは書かずに「夢を見させてくれるシステム」と書いたのはそういうワケです。

人生の艱難辛苦を舐め尽くしたオッサンならご存じのはずです。
そう、

夢は寝てみるモンだ!

と。

続く

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