オートマのまとめ

- 第3回 ステップ式AT トルコン その1-

2015/03/21 公開

lever ステップ式ATは、右の写真のように主にトルクコンバーター、変速部、バルブボディから成り立っています。
トルクコンバーターはエンジンの動力を変速部に伝えます。
変速部は文字通り変速する部分で、2~4セットの遊星ギアを使用し、4~9速の変速を行います。
バルブボディは、トルクコンバーターや変速部を作動させるための油圧を制御します。

さて、今回はトルクコンバーター、略してトルコンです。
このトルコン、主に3つの役割があります。
1つ目は動力の伝達。
自動車の構造を説明する本では、トルコンと言えば必ず向かい合った扇風機のイラストが掲載されています。
なのでワタクシメもパクらせていただくと、下の動画になります。


エンジンの動力によって回転させられた扇風機の羽根が空気の流れを作り出し、その空気の流れがタイヤにつながる向かい合った扇風機の羽根を回転させる。
メデタシ、メデタシ。これでエンジンの回転は無事にタイヤを回すことができます。
ただし、実際のクルマでは空気ではなく油を媒体に使っています。
そりゃそうだ。
イクラなんでも、空気じゃ効率がよくなかろうことは直感的にわかります。
つまりエンジン側の扇風機を“強”で回しても、タイヤ側の扇風機はきっと“弱”ぐらいでしか回らないことでしょう。
なので、羽根と羽根の間には油。
この油、ATオイルとかATF(オートマチックフルード)とか呼ばれていますが、ナントなくカッコいいので、ここではATFを呼びます。
ところが空気をATFに変えたところで、エンジン側を100で回転させても、タイヤ側は100にはならない。
なので、かつてオートマはマニュアルより燃費が悪いと言われていた原因の大部分はトルコンにあります。

「じゃあ、羽根とか油とかまどろっこしいコト言わないで、エンジン側とタイヤ側を金属の棒かナニかでつなげはいいじゃねぇか」

と閃いたオッサン、アンタは半分正しい!
実際、今のクルマにはそれっぽい仕組みがもれなく付いています。
ただし、単純な金属の棒ではまずい。
ちょっと想像してみてください。
エンジンと変速部が金属の棒でつながった車をオッサンは運転しています。
ちょっと先の信号が赤に変わったので、そっとブレーキを踏んでゆっくり減速します。
そして交差点手前で車の速度が0に近づいたとき、突然エンジンはガクン、ガクンと振動してエンストします。
そうです。信号待ちでは、タイヤが止まっていても、エンジンは回っていなければならないのです。
マニュアル車なら、たとえギヤが入っていても、クラッチを踏めばタイヤを止めてもエンジンは回転し続けることができます。
そう、それがトルコンの2つ目の役割、動力の断続です。
要はこういうことです。↓


ホラ、エンジンが回っているのにタイヤは止まったでしょ?
トルコンのおかげで、エンジンが回ったまま信号待ちができるのです。

昔、ワルだったオッサンにこんな経験はありませんでしょうか?
深夜の彼女とのドライブ中、信号で止まると隣に同車種のクルマが並んだ。
ムコウも若い男がハンドルを握り、助手席には女。
オッサンの若かった肉体からは、攻撃性を司る男性ホルモン・テストステロンが怒涛のように分泌されています。

ブオ~ン

と一発空ぶかしをくれてやると、相手は

ブオ~ン ブオ~ン

と二発。

やんのかよっ!

オッサンのステアリングを握る手に力が入ります。
信号が青に変わる直前、
オッサンはブレーキペダルを左足で力いっぱい踏み込むと同時に、アクセルペダルを深々と踏み込みます。
そして信号が青。
オッサンはブレーキリリースと同時にアクセルペダルを床まで蹴っ飛ばす。
2台のトヨタ クレスタ スーパールーセント ツインカム24ツインターボ+デジタルメーター+ピレリP7は、交差点に黒々としたスリップマークを残し、甲高いスキール音を深夜の街に響かせながら脱兎のごとく加速して・・・
ハテサテ、この結果がどうなったかは知る由もありません。
トラクションコントロールなんてハイテクディバイスが影も形もなかったころです。コントロールを失ったクレスタがガードレールに激突したのか、物陰に隠れていた白と黒に塗り分けられたクルマに止められたのか・・・
いずれにしたところで、トルコンとは関係のない話ですが、青信号直前のオッサンの行動はトルコンと関係おおありです。

シャシはエンジンより速く

ロータスの創始者、かのコーリン・チャップマンの設計思想だそうです。
ホントに速いクルマを作るには、エンジン出力よりもシャシ性能が大切なのだと・・・
ではワタクシメもそれにならって

ブレーキはエンジンよりも強し

話を戻しましょう。
青信号直前で、オッサンはブレーキペダルを力いっぱい踏みながら、アクセルも大きく踏みました。
このとき、タコメーターの針は3000~4000の間あたりで止まったはずです。
この回転数をストール回転数なんて呼ぶのですが、
要はタイヤ側の羽根をブレーキで固定してしまうと、それが抵抗になって、たとえアクセル全開でもエンジン回転数は3000とか4000とかまでしか上がらないのです。
そう。力関係で言うと、

エンジン < ブレーキ

なのです。
アクセル全開でもこんな調子ですから、信号待ちのアイドリングでは軽くブレーキペダルを踏んでいるだけで、エンジンは回転しタイヤを止めることができるのです。
この状態から、ブレーキペダルを徐々に放すと、タイヤ側の羽根が徐々に回転し始め、クルマもゆっくり進みだします。これがクリープ現象と呼ばれるのもです。
そうそう、オッサンはもうオッサンですから、さすがに信号グランプリをやることなどないでしょうけど、もし、助手席にメカケを乗せて隣のクルマと張り合うときは気を付けてください。
ブレーキ全開、アクセル全開の状態を長時間続けると、羽根の間を流れるATFが高温になってオートマを傷ませる原因になります。
まあ、メカケを乗せて事故なんて起こしたら家庭崩壊一直線でしょうから、オッサンは間違っても信号グランプリなんてしないでしょうけど・・・余計なお世話でしたね。



トルクコンバーターとは「トルクをコンバートするもの」です。
コンバートとは「変換する」とか「転換する」の意味ですので、トルコンは何かをトルクに変換するわけです。
では何をトルクに変換するのでしょう?

金だ!

と言ったオッサンは成功したオッサンに違いありません。
月並みですが、「お金だけがすべてじゃない」ってことは重々承知です。
しかしこの歳になると、大抵のものはお金で手に入ることも思い知らされています、残念ながら・・・
トルクだってお金で手に入ります。
今のクルマのままトルクがほしければチューニングショップの暖簾をくぐればよいのだし、
クルマを変えていいなら、3100万円ほどで、1000N-mのメルセデス・ベンツ SL65 AMGが手に入ります。
そう、大抵のものはお金で手に入っちゃうのです・・・(涙

しかし!
ワタクシメと同様、成功者ではないオッサンの皆さん、ご安心ください。
3100万円なくとも、トルコンはトルクに変換してくれるのです。
ではトルコンは、お金の代わりにナニをトルクに変換してくれるのでしょうか?
それは速度です。
エンジンの回転数を出力トルクに変換してくれるのです。

さて、下のグラフは一般的なトルコンの性能を表したものです。

graph

色々とゴチャゴチャ書き込みましたが、今回は赤の線に注目してください。
縦軸はトルク比、横軸が速度比です。
ナンの比率かというと、トルコンへ入るときと出るときの比率です。
少々わかりづらいので、具体的に見てみましょう。
赤線の速度比が0.2のトコに注目してください。
速度比が0.2とは、エンジンから2000rpmの回転数が入力されると、トルコンからは2000×0.2で400rpmが出力されるということです。
大きく減速されるわけですね。
このとき縦軸のトルク比は、だいたい1.8くらいでしょうか。
これは10kg-mのトルクが入力されると、18kg-mのトルクが出力されるということになります。
(現在では、トルクの単位はNmがデフォルトですが、昭和のオッサンであるワタクシメには、いまだにkg-mの方がピンときます)
さて次は速度比0.8を見てください。
エンジンから2000rpmが入力されると1600rpmが出力されるわけですが、
このときトルク比はほぼ1ですから、出力トルクは10kg-mとなります。
なるほど、トルコンを通ることによって速度が大きく遅くなるとトルクがたくさん増えるけれど、速度の遅くなる度合いが小さくなると、トルクの増える量も小さくなる。

アレッ、どっかで聞いた話だぞ!

と閃いたオッサン、アナタは素晴らしい!
ちょっとマニュアル車を思い出してください。
1速にシフトすると、エンジン回転に対して出力速度は遅くなるけど、トルクは増える。
そして高いギアにシフトする度に出力速度は速くなりトルクは減る。
これと基本的に同じことです。

そう、トルコンだけでも変速機になりうるのです!

まっ、あまり効率的な変速機ではありませんがね・・・。
これがトルコンの3つ目の役割です。



前回、ホンダマチックについてお話したことをご記憶でしょうか?
そうそう、今井美紀さんのアレです。
一般的なオートマのDレンジにあたる☆レンジとLレンジを手動で切り替える。
手動なのにセミAT。
おかしーじゃねーか!
という話でした。
で、トルコンだけでも一応変速機を名乗ることができるとわかった今なら、まあ少々苦し紛れ感があるもののセミATと主張する気持ちがわからないわけではなくなったのではないでしょうか。
そう言えば、大昔のオートマの教科書ではトルコンを主変速機、遊星ギア部分を副変速機と説明していました。
そう考えると、ホンダもセミATなんて遠慮がちに言わず、副変速機付オートマチックと堂々と名乗ればよかったのかもしれませんね。

今井美紀さんには似ても似つきませんでしたが、看護師であった知人の○子ちゃん(名前は忘れました)がホンダマチックのトゥディに乗っていました。
「☆レンジのままじゃ遅くてしょうがないから、いつも発進のときは手でLレンジに入れるの。ナニがオートマよ! 腹立つ!」と言っていたのを覚えています。
今でもだいぶ薄まってしまった感がりますが、当時のホンダはとても独創的でしたからね。
まあ、よく言えば独創的で、悪く言えば独りよがり的となるのでしょう。
その独りよがりがバッチリとハマれば賞賛を浴び、販売台数も伸びるのでしょうが、そうでなければ時を置かず消えていくのでしょう。
☆レンジ付のホンダマチックは、おそらく前者ではなかったのでしょう・・・。

続く


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