オートマのまとめ

- 第11回 AMT その1-

2015/05/26 公開

book ワタクシメの愛読書の中に、生物学者でエッセイストであるスティーブン J グールドの著書があります。
「ワンダフルライフ」とか、「ダーウィン以来」など、生命の進化に関する著書がワタクシメの好みでございます。
その著書の一冊に、サカサクラゲについての記述があります。
サカサクラゲは、その名の通りクラゲの一種ではあるのですが、フツーのクラゲとはチト違うらしい。
一般的なクラゲは腹側の中心に口があるのですが、サカサクラゲはソコに口を持たず、代わりに8本の腕が伸びています。
腕には、それぞれ40個の口があるため、この腕を「口腕(こうわん):oral arm(オーラル アーム)」と呼ぶそうです。
腕を「口腕」と名付けてしまったが故、口腕にある口を、oral arm(オーラル アーム)にある口(mouth:マウス)で、oral mouth(オーラル マウス)と名付けてしまったそうです。
オーラル マウス・・・日本語にすれば口口(くちくち)です。
本来であれば、「口腕にある口」と名付けるべきであったのでしょうが、どういったオトナの事情か「口口」となったそうです。
口口なんて、なんたる理不尽な名前でしょう。



さて、AMTです。
Automated Manual Transmission(オートメイテッド マニュアル トランスミッション)
どんなに好意的に訳しても、自動化された手動変速機。
意味として通じないわけではありませんが、自動化された時点で手動ではないので明らかにオカシイ。
「手動変速機を自動化した変速機」が正解でしょう。
そして悪意を持って訳せば、自動手動変速機。

嗚呼、なんたる理不尽!

大きくて小さなイチゴ大福
これが成り立つでしょうか?
このAMTが登場したての頃、ロボタイズドMTなんて呼ばれてもいましたが、
これだって「ロボットが操作する手動変速機」です。
ロボットが登場した瞬間にもう手動ではないではありませんか!

会社で管理職に就かれているオッサンは想像してみてください。
部下が持ってきた企画書に、「自動手動変速機」なんて書かれていたら。

馬鹿かオマエ! 小学校へ行って日本語をやり直してこい!

と、怒声を上げたくなること間違いありません。
でもやめましょうネ。
パワハラ上司扱いされることも間違いありませんからネ。

しかし、ナントか怒声を堪えたオッサンも、帰宅してビールを飲んで、風呂に入って、ちょっと冷静に考えてみる。
「自動手動変速機・・・なんたる馬鹿げたネーミング・・・」
「しかし、これ以上わかりやすいネーミングがあろうか・・・」
かくして、自動手動変速機は、正式な企画としてキックオフされましたとさ・・・メデタシ、メデタシ

(2015/9/11 追記)
最近。「シンクロのソロ」なる言葉を耳にしました。
シンクロナイズド スイミングの個人競技のことだそうです。
言うまでもなく、複数の競技者がピッタリと息を合わせて演技をするのがシンクロナイズド スイミングです。(シンクロナイズド[ synchronized ]: 同期した)
ですから、一人でやったらシンクロもヘッタくれもありません。
一人でナニをどー同期させようっていうのでしょうか・・・?
なのに、シンクロのソロ演技。
だけど名前を聞いただけで、競技内容が想像できます。
イヤハヤ、名前の付け方というのは難しいものですね・・・。


その自動手動変速機が登場したのは、Wikiによると1997年。
フェラーリーF355に搭載されたF1マチック。
同年、BMW M3にSMGとして、トヨタ MR-SにSMTとして搭載されました。
その後も、1999年にはアルファロメオ156にセレスピード、
2006年に、ランボルギーニ ムルシエラゴ LP640にe-gear、
などなど、スポーツカーや、高出力エンジンを搭載した車種を中心に採用が広がるかのように見えました。

しかし2003年には、Sトロニックの商品名でDCTがアウディ A3に搭載されされ、
「どうもコッチの方がイイらしい・・・」となり、広がり始めた採用車種も減少の一途で、
現在では、スポーツカーや高出力エンジン搭載車ではほとんど採用車種がありません。
ただし、MTより操作が簡単で、DCTやステップ式ATより安いといった理由で、低価格車で採用されることが多くなっています。

構造は、MTのクラッチ操作とギアシフト操作を、コンピューター制御された油圧で行います。
ワタクシメは運転したことがありませんが、自動車雑誌の試乗記によると、このAMT、あまりクラッチ操作が上手ではないらしい。
某輸入車を所有するワタクシメの友人が、愛車を修理だか点検だかでディーラーに入庫させた時に、代車として借りたクルマがAMTだったそうです。
で知人によると、自動車雑誌の言い方は、スポンサーに対する最大限の配慮を尽くした表現だと感じた、と言うことでした。
つまり、

ヒデーもんだ!

そしてディーラーの担当者曰く、

慣れれば大丈夫ですヨ!

そりゃあ、代車で借りたわけですから、感想は述べても苦情は言えません。
でも、このクルマを購入してしまったと想像すると・・・

フザケルナッ!

と、叫びたくなること必定。

でも、営業マンとしては、これ以上どう言うコトも出来ないことでしょう。
メーカーが作ったクルマを、売るしかないのですから・・・

一生懸命に考えて、積み上げられて、細部まで詰められた
「嗚呼、こんなにいいクルマを作ってくれてありがとう。」
と言いたくなるクルマもあれば、
どう言ったオトナの事情があったのか、
「フザケンナッ!」
と言いたくなるクルマが存在することも、コレまた事実。

ちなみに、国産車でもスズキ アルト ターボRSにAMTがAGSという商品名で採用されたそうです。
そしてWebの試乗記を読む限り、どうもこのAGSも・・・・

以上、AMTの回、オワリ!
と、思ったのですが、これじゃあまりに内容が薄いので、自動化されない手動変速機の説明でも致します。
さて、非自動手動変速機・・・あまりシツコイと若いコにも嫌われるので、ふつーうにMTとしましょう。
このMT、現在はシンクロメッシュ常時噛み合い式と呼ばれるものが使用されています。
一般的に下図のように、3本のシャフトによって構成されています。


赤いシャフトがインプットシャフト。クラッチを介してエンジンの回転がココから入力されます。
水色はカウンターシャフト。インプットシャフトによって回されます。
ピンクがアウトプットシャフトで、変速された回転をタイヤ側へ伝えます。
緑色のギアはリバースギアで、バックにシフトしたときに、このギアを間に挟むことで回転を逆転させます。
ご覧のように、すべてのギアが噛み合って回転しているので「常時噛み合い式」と呼ばれます。

注目して欲しいのはギアとシャフトの関係です。
赤のインプットシャフトと、インプットシャフト上のギアは一体となっていて、インプットシャフトが回転すれば、ギアも回転します。
水色のカウンターシャフトも同様。カウンターシャフトが回転すれば、カウンターシャフト上のギアも回転します。
で、問題はピンクのアウトプットシャフトです。
上図ではアウトプットシャフトと、アウトプットシャフト上のギアの色が違っていますが、コレは手抜きなわけではありません。
インプットシャフトやカウンターシャフトとは異なり、アウトプットシャフトとアウトプットシャフト上のギアは固定されていません。
よって、アウトプットシャフト上のギアは、アウトプットシャフトに対して空回りすることができます。
上図はニュートラルの状態ですが、エンジン回転は
インプットシャフト → インプットシャフト上のギア → カウンターシャフト上のギア → カウンターシャフト → カウンターシャフト上のギア → アウトプットシャフト上のギア
と伝わりますが、アウトプットシャフトは空回りし、タイヤ側へ回転を出力しません。

ここから、1速にギアを入れると下図のようになります。



アウトプットシャフトと、アウトプットシャフト上の1速ギアを噛み合わせることで、エンジン回転は、
インプットシャフト → インプットシャフト上のギア →カウンターシャフト上のギア → カウンターシャフト → カウンターシャフト上のギア → アウトプットシャフト上のギア → アウトプットシャフト
と伝わり、タイヤ側へ出力されます。

2速の場合も同様で、下図の通りとなります。


もうお気づきでしょうが、MTのシフトチェンジは、ギアとギアの噛み合わせを変えるのではなく、アウトプットシャフトとアウトプットシャフト上のギアの噛み合わせを変えることで行います。

では、シャフトとギアをどう噛み合わせるのか・・・
これがチョットめんどくさいのです。
当然のことですが、ギア比が違うのですからアウトプットシャフト上のギアは、それぞれ異なった回転数で回っています。
たとえば、3速で走っているときに、3速ギアが2,000rpmで回転しているとします。
3速のアプトプットギアと噛み合わされたアウトプットシャフトも、当然2,000rpmで回転します。
しかしこのとき、2速ギアは、それより高い回転数、たとえば3,000rpmで空回りしているのです。
シフトチェンジする場合、この回転差をナンとかしなければならない。
で、ナンとかしてくれるのがシンクロメッシュ機構です。

まずは構造です。
下図は、アウトプットシャフトと、1個のギアと、それらを噛み合わせるためのシンクロメッシュ機構です。


  • アウトプットシャフトとギアは噛み合っていません。
  • シンクロナイザーリングは、アウトプットシャフトともギアとも噛み合っていません。
  • シンクロナイザーハブの内側はアウトプットシャフトと噛み合い、外側はハブスリーブ、シンクロナイザーキーと噛み合っています。
  • ハブスリーブは、内側でシンクロナイザーハブ、シンクロナイザーキーと噛み合い、アウトプットシャフトの軸方向にスライドできます。
    さらに外側にも溝があり、ドライバーが操作するシフトレバーと接続されています(後述)。
では、作動を見てみましょう。
下図は、上図の断面図です。
絵なので動きませんが、ホントはギアやシャフトなどが回転しながら作動します。



如何でしょうか?
ちょっとややこしくはありますが、ご理解いただけましたでしょうか?
この仕組みをゴク簡単に言ってしまえば、「各ギアとシャフトの間にクラッチがあり、シフトチェンジの度に半クラを使って回転を合わせている」と言うことになりましょうか。

最後に、シフトレバーの動きです。
動画は、一般的な5速MTの構造です。
それぞれのハブスリーブの外側の溝に、シフトフォーク(動画中の青)が嵌り、シフトフォークはシフトフォークシャフト(黄色)によって前後に動かされます。
シフトフォークシャフトには溝があり、その溝にシフトレバー(茶色)が嵌っています。
シフトレバーの動きは、シフトフォークシャフト → シフトフォーク → ハブスリーブと伝わり、1速からリバースの動きに対応してアウトプットシャフトとアウトプットギアを噛み合わせます。



なお、FFやRR、ミッドシップ車では、ワイヤーやロッドによって遠隔操作します。

AMTから話がそれてしまいましたが、
AMTは、要は自動手動変速機ですから(←シツコイ)、クラッチ操作と、このシフトフォークシャフトの動きを自動で行っているということですね。
でも、どう考えても、「自動手動変速機」・・・ネーミングが納得がいかないナ・・・

続く


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