オートマのまとめ
- 第5回 ステップ式AT トルコン その3-
2015/04/12 公開
第3回のトルコン その1で
「じゃあ、羽根とか油とかまどろっこしいコト言わないで、エンジン側とタイヤ側を金属の棒かナニかでつなげはいいじゃねぇか」
と閃いたオッサン、アンタは半分正しい!
と申し上げましたが、その半分についてお話しいたします。
たしかにオッサンがおっしゃる通り、エンジン側の羽根とタイヤ側の羽根を機械的に結合してしまえば、スリップによる損失もなくなりますし、加速時のダイレクト感もマニュアルトランスミッションと原理的には同じになるはずです。
ただし、これでは信号待ちでエンストしちゃうということもすでにお話しした通りです。
で、自動車メーカーのオートマ係の人は閃いた。
必要なときだけ、エンジン側とタイヤ側を直結させればイイじゃね?
と。
そうして出来上がったのがロックアップで、ロックアップするための部品がロックアップクラッチです。
下の図を見てください。
トルコンの上側半分の断面図です。
青がトルコン外側のトルコンケース。
水色はエンジン側の羽根(インペラ)で、トルコンケースとつながっています。
ピンクがタイヤ側の羽根(タービン)で、タイヤ側に出力するためのシャフトとつながっています。
オレンジがロックアップクラッチで、出力シャフトと嵌合されていて回転は伝えるけれど、下図でいうところの左右にはスライドできるようになっています。
黄色は、今回出番がないステーター。
もちろん、内部はATFで満たされています。
ああ、大事なことを忘れていました。
今まで黙っていましたが、クルマに載せられた状態では、トルコンに伝わる力は2回Uターンします。
つまり断面図でみると、エンジン側にタイヤ側の羽根が、タイヤ側にエンジン側の羽根がついていますので、気を付けてください。
で、まずはロックアップしていない状態です。
エンジンからの力は、トルコンケース → インペラ → ATF → タービン → 出力シャフトの順に伝わります。
下図にマウスを合わせてください。
ロックアップされた状態です。
ロックアップクラッチが出力シャフト上をスライドして、トルコンケースに押し付けられます。
これでエンジンからの力は、トルコンケース → ロックアップクラッチ → 出力シャフトと伝わります。
ホ~ラ、これでエンジンとタイヤは機械的に結ばれました。
アクセルを踏んでエンジン回転が上がれば上がっただけ車速も速くなり、アクセルを放せばエンジン回転が下がれば下がっただけ車速も遅くなります。
やっぱりクルマたるもの、こうでなければいけません。
さて、ここで問題が発生します。
いつ、ロックアップさせるのか?
です。
今でしょ!
と答えたオッサン、ちょっと古い(笑
今でもそういうクルマがあるかもしれませんが、かつての国産車は、トルコンがズルズルでした。
辛口評論する自動車雑誌によると、エンジンの低速トルクの無さを隠すためだそうです。
その頃、カタログ上の最高出力が何よりも大事でした。
120PSのクルマより130PSのクルマの方が偉かったのです。
となると、自動車メーカーのエンジン係の人は、低速トルクを犠牲にしてでも高回転で力の出るエンジンを作っちゃう。
たとえばこう言うことです。
信号が青になってオッサンがアクセルを踏む。
エンジンとミッションが直結状態だと、低速トルクがスカスカなのでイライラするほど加速が鈍い。
で、ここで登場するのがズルズルトルコン。
トルコンが滑るので、エンジン回転だけはポンと上がる。
そこでトルコンが速度をトルクに変換して、なんとかオッサンお客様のご不満が出ない程度に加速させる・・・
ただしエンジン回転数の上昇と車速の上昇が一致しないので、ダイレクト感のカケラもない。
低速トルクをどげんかせにゃいかん!
あるとき、と言うか、ようやくメーカーの人も思い立ってくれまして、ここ最近はこういったズルが減ったようです。
下図は、あるクルマの新型と旧型のロックアップする領域を比較したものです。
旧型では、エンジン回転数が一定以上にならないとロックアップしませんでしたが、新型では走り出すとすぐにロックアップする。
低速トルクがたっぷりとあるエンジンなら、こういう使い方をしてもOKなんでしょうね。
こうなると、もうトルコンは発進用装置となってしまいます。
ああ、かつては「主」変速装置と呼ばれていたのに、今じゃ発進用装置・・・
国破れて山河あり・・・の心境です。
ならトルコンなんていらねーじゃん!
と、再び思ったオッサン、大正解です。
かのジャーマニーの丸に三本線のメーカーの人もそう思ったらしい。
で、できたのがコレ↓
メルセデス・ベンツの高性能版車種に採用されているSPEED SHIFT MCTです。
トルコンの代わりに電子制御の油圧多板クラッチをつけものです。
なるほど、ベンツの高性能版車種ですから、高速だろうと低速だろうと、エンジントルクは有り余ってる。
なら、わざわざ伝達効率を落としてまでトルク増幅なんてする必要はこれっぽっちもない。
じゃあ、トルコンなんてイラネ。多板クラッチにしよう!
とても理にかなっているように思えますが、今のところこんな変り種ミッションを使ってるのはベンツだけで、これが今後の主流になるかどうかわかりません(多分、ならないような気がします。)。
と言うわけで、主変速装置 → トルク増幅装置 → 発進装置と、主な役割を変えつつ、トルコンはこの先もオートマの主役の一人であり続けそうです。