オートマのまとめ

- 第10回 CVT その3-

2015/05/20 公開

ナニゆえ、日本車以外ではCVTが流行らないのか?
と、その前に、ホントに流行っていないのかどうかを調べてみました。
日本に輸入されているクルマのトランスミッションです。

  
 国  メーカー   車名    CVT    ステップAT    MT     AMT    DCT  
ドイツVWUP!
Polo
The Beetle
Golf
Tiguan
Sharan
Passat
CC
Touareg
メルセデス・ベンツ
CLA
CLS
GL
GLA
GLK
SL
SLK
BMW
X1
X3
X4
X5
X6
Z4
M3
M4
M5
M6
AudiA1
A3
A4
A5
A6
A7
A8
Q3
Q5
TT
R8
ポルシェボクスター
ケイマン
911
パナメーラ
マカン
カイエン
フランス プジョー208
2008
308
3008
5008
RCZ
シトロエンC5
C4
C3
DS5
DS4
DS3
ルノールーテシア
キャプチャー
カングー
メガーヌ
コレオス
イギリス ジャガーXE
XF
XJ
XK
F-type
ランドローバーレンジ ローバー
レンジ ローバー スポーツ
レンジ ローバー イヴォーク
ディスカバリー
ディスカバリー スポーツ
フリーランダー
アストンマーチンヴァンキッシュ
DB9
ラピード
ヴァンテージ
ミニ
イタリア フィアット500
パンダ
アルファロメオミト
ジュリエッタ
4C
フェラーリーカルフォニア
458
F12ベルリネッタ
FF
ランボルギーニウラカン
アヴェンタドール
マセラティギブリ
クワトロポルテ
グラントゥーリズモ
スェーデン ボルボS80
S60
V70
XC60
V40
アメリカ GMキャィラック ATS
キャィラック CTS
キャィラック SRX クロスオーバー
キャィラック エスカレード
シボレー ソニック
シボレー キャプティバ
シボレー カマロ
シボレー コルベット
フォードフィエスタ
フォーカス
ムスタング
エコスポーツ
クーガ
エクスプローラ
クライスラー300
Jeep ラングラー
Jeep チェロキー
Jeep コンパス

なお、上表は以下の条件にて作成しました。あらかじめご了承ください。
  • 2015年5月 各輸入会社Webサイトの主要緒元を参照。(日本に輸入されている車種のみですので、本国、あるいは他国への輸出分は不明ですが、全体の傾向はつかめると思います。)
  • ハイブリット車はすべて除く。
  • 表内の「国」は、イメージです。もはやどのメーカーがどの国の資本で、どの車種がどの国で製造されているのか、サッパリわかりません。
余談ですが、オッサンの皆さん方は、「フィアットはイタリア車、クライスラーはアメリカ車」というイメージがありませんか?
ワタクシメにはありました。
しかしながら、合併したこの2社はFCA(フィアット クライスラー オートモーティブ)という社名になり、登記はオランダ、本社所在地はイギリスだそうです。
この機にフェラーリーはフィアット傘下から抜け出したようですが、アルファロメオは依然フィアット傘下ですから、ジュリエッタや4Cはイギリス車になるのか?
MINIは、BMW製ですが、組み立てはイギリスでもやっているらしい・・・からイギリス車なのかドイツ車なのか・・・?
これは昔からですが、フォードの小さめのクルマは欧州フォード製ですから、アメリカ車ではない・・・?
オペルはどうなったんだ?
ローバーはどうなったんだ?
世界情勢と同様、自動車世界地図も混沌としてまいりました・・・



閑話休題
前回と同様、さーっと表を眺めてみると、やはり意外にMTの設定車種が多いですね。
ワーゲングループのワーゲン、アウディ、ポルシェは軒並みDCTです。
イタリア社もDCT増殖中。
その他はステップ式AT。
まとめるとこんなトコでしょうか。
さて、問題のCVTです。
この項を執筆時点で、日本に輸入されているクルマでCVTを採用しているのは、わずか4車種。
アウディA4、A6と、ルノーコレオス、Jeepコンパスのみ。
で、コレオスの中身は日産車ですから除外すると、残りはアウディの2車種とJeep コンパスのみ。
コンパスは、2015年5月時点でFAC Japanのサイトで確認すると、CVTとなっていますが、
自動車ニュースを扱うサイトでは2013年7月13日発売の新型から6速ATとなっています。
旧型モデルが在庫の山になって、新型を販売することができないのか、あるいは単にサイトの記載ミスなのか・・・
まあ、米国のサイトを見ると6ATの設定なので、そういうコトにしておきます。
残りはアウディの2車種。
そのどちらも、2リッターのTFSIエンジンを搭載したFF車のみCVTが採用されているのですが、
現行A4が登場したのが2008年なので、設計年次的にはだいぶ時間が経っています。
これだけDCTに傾倒しているワーゲングループのアウディですから、おそらく次回のモデルチェンジでは全車DCTとなるのではと、推測いたします。
そうなると腑に落ちないのがA6です。
こちらは2011年発売開始ですから、時期的にはDCTであってもおかしくないように思えるのですが、大人の事情があったのでしょうか・・・?
まっ、とにかく、日本車では大繁殖中のCVTですが、欧米車では絶滅危惧種となっていることは間違いがないようです。
で、ようやく本題です。
なぜ、欧米車ではCVTが流行らないのか?
CVTのドコが気に入らないのか?
2つ理由を考えてみました。

その1

加速にダイレクト感がない。
自動車雑誌風に言えば「ラバーバンドフィール」。
前回の「CVT その2」でお話ししましたよう、CVTの燃費がイイのは、逆説的に言えば加速にダイレクト感がないおかげです。
と言うことは、CVTにダイレクト感を加味すると燃費の良さがスポイルされる。
でも、自動車メーカーにとっては、そんなことはどうでもイイことかもしれません。
数年前になりますが、某自動車雑誌に、本国から来日したポルシェの広報担当のエライ人のインタビュー記事が載っていました。
そこには、

「古ーいポルシェを手を加えながら大事に保有している愛好家は、我々の顧客ではない。
我々が大切にしなければならないのは、自分にポルシェの新車を買うか、奥様の誕生日に毛皮のコートを買って上げるかで悩む人々だ。」

的なコメントがありました。(うろ覚えではありますが、概略としては上記の通りの意味でした)
まあ、間違ってはいないと思います(涙
ドンナにポルシェを愛していても、30年前の911をドンナに大事にしていても、ポルシェ社にはほぼ1銭も入らないのですから・・・。

嗚呼、なんたる無情!

嗚呼、なんたるトマ・ピケティ!

というわけで、自動車メーカーにとっては、
「加速するときにさ~、なんかダイレクト感がないんだよね~」
なんてほざいている超少数派のオッサンの意見など、耳を貸す必要はないのです。

世の中は「燃費」なのです。

CO2排出量なのです。

だったら、ナンでもカンでもCVTにすりゃいいじゃん(怒!
ところが・・・

CVTが流行らない理由その2の1

どうもCVT、言うほど燃費がいいわけじゃ・・・

前回の「第10回 CVT その2」で申し上げましたよう、CVTはベルトやチェーンを「押し」方向で力を加えます。
ここで、普通の滑車を考えてみてください。井戸の釣瓶の滑車でも、クレーンの滑車でも構いません。
では、滑車に掛かった綱(ワイヤー)をグイと引いてみましょう。
  1. 綱(ワイヤー)の弛みがなくなり、、綱(ワイヤー)が滑車の内面に強く押し付けられる。
  2. 綱(ワイヤー)と滑車内面の間に摩擦力が生じる。
  3. さらに綱(ワイヤー)が引かれると、摩擦力によって滑車が回転する。
となります。

しかしCVTの場合、上記の綱(ワイヤー)に当たるベルト(チェーン)は押されるわけですから、滑車のドコとも摩擦力は生じず、ベルト(チェーン)の動きはプーリーに伝わりません。
じゃ、CVTはドコで摩擦力を発生させているかと言えば、
ココです↓


ベルト(チェーン)も金属なら、プーリーも金属。
金属同士を押し付けて、その摩擦力でエンジン動力を伝えなければならないので、相当な力が必要です。
車種にもよりましょうが、このベルトを挟み込む力に5MPa(メガパスカル)もの油圧を作り出さなければならないそうです。
昔風に言えば、5MPaは約50気圧。
この油圧をオイルポンプで作り出すには、エアコンと同程度の負荷がエンジンにかかるそうです。

銀のスプーンをくわえて生まれてきた一部のオッサンは別として、
成功して、今では金持ち父さんとなったオッサンでも、若い頃は軽自動車やリッターカーに乗ったはずです。
であるならば、エアコンの負担がエンジンにとってどれだけ大きなものであるかを体験なさったことでしょう。
エアコンのクラッチが「カチンッ」とつながった瞬間、加速がグッと鈍る。
当然、夏場は燃費ガタ落ち。
CVTでは、そのエアコンが四六時中つながっている状態なのですから、燃費に良い影響があるはずもありません。

ちなみにステップ式ATではどうかと、手元にある某車種・5速ATの資料を見てみると、最高で約2,000KPsでした。
単位を合わせると、2MPa。
いかにCVTの油圧を作り出すための負担が大きいかわかります。


CVTが流行らない理由その2の2

もう一つ、CVTの燃費が思ったほど良くない理由があります。
それはレシオカバレッジです。

不思議なもので、同じ意味合いの言葉でもカタカナにするとハードルが下がります。
さ~むい冬の日、いい歳のワタクシメでも、

絶対にサルマタやモモヒキははきたくありません。

でもヒートテックならOK。

社内のお局さまにも、アンチエージングの話題なら振れますが、

「若づくり」とは口が裂けても言えません。


で、レシオカバレッジです。
昔は「変速比幅」なんて呼んでいたと思うのですが、ナゼか最近はレシオカバレッジと呼びます。
変速比幅と言うと、頭から湯気を噴いて怒り出す人でもいたのでしょうか・・・?

閑話休題
レシオカバレッジとは、まあ、上にもあるように変速比幅で、1速の変速比から一番上のギアの変速比までの幅を表します。
計算方法は、「1速変速比」÷「一番上のギアの変速比」です。
たとえば1速の変速比が4.92、7速が0.77とした場合、

4.92 ÷ 0.77 = 6.39

レシオカバレッジは6.39となります。
1速の変速比は、エンジンのトルクと求められる加速性能で決まってしまいます。
一方、一番高いギアは、高速道路での燃費を考えるてなるべく小さくしたい。
つまり、レシオカバレッジをデキるだけ大きくすることで、発進加速も良く、高速走行時の燃費も良くできるわけです。

では、レシオカバレッジを比べてみましょう。
9速ATは、ランドローバー イヴォーグやJeep チェロキーに搭載されたZF社製の最新ステップ式AT。
7速ATは、そろそろモデルチェンジのチョット古めの現行車種搭載AT。
CVTは、スバル レガシーの最新型CVT。 
 
9速AT 7速AT CVT
1番低いギア   4.700    4.923     3.581  
1番高いギア 0.4790.771 0.570
  レシオカバレッジ   9.816.385 6.282

この表で見る限り、CVTのレシオカバレッジは、ちょっと前の7速ATとはイイ勝負だけど、最新AT相手となるとかなりキビシイ。
ナント、1.5倍もの差がついてしまいます。
比較するために単純化して、これらの9速ATとCVTを同じクルマに積んで、高速道路を100km/hで巡航したとします。
このとき、9ATで1,200rpmのエンジン回転だとすると、CVTでは1,870rpmも回ってしまいます。

じゃ、CVTでもレシオカバレッジを広げればいいじゃん!

と、閃いたオッサン、アナタは正しい!
が、そうもいかない理由があります。
前述のように1速は自動的に決まってしまいますから、レシオカバレッジを広げるには高い側の変速比を小さくするしかない。
それには、エンジン側のプライマリープーリーを小さくするか、タイヤ側のセカンダリープーリーを大きくしなければならない。
これがCVTでは、思ったようにイカない・・・
セカンダリープーリーについては、単純に大きさの問題であって、ボンネットの中やセンタートンネルの中に収めるには、おのずと限界がある。
なら、プライマリープーリーを小さくしようと思っても、ベルトは急な角度には曲げられない。
・・・と言うわけで、CVTの構造上、レシオカバレッジを大きくすることができないのだそうです。
もちろん、各メーカーは努力はしているらしい。
副変速機をつけたり、ベルトより急な角度で曲げられるチェーンを使ってプライマリープーリーを小さくしたり・・・
でも、プラネタリーギアの組み合わせで段数を増やせるステップ式ATや、歯車の数を増やせばいいだけのDCTのように簡単にはイカないらしい。

さらに言えば、エンジンの効率の良いトコを使って燃費を稼ぐCVTではあるのですが、これはトルクバンド(効率の良い領域)の狭いNAエンジンでは非常に有効ではあるけれど、
最近流行りのダウンサイジングターボでは、フラットトルクで効率の良い領域も広い。
となると、なおさらCVTは・・・

イヤイヤイヤ、チョット待て。
カタログではCVTの方がイイんだろ、燃費!

オッサンのおっしゃる通りでございます。
確かに、カタログ上のJC08燃費はCVTの方がイイ。
ちなみにJC08モードとは、以下の走行パターンで走行した場合の燃費です。

jc08
このモード通りに走っていれば、まあ、CVTの方が燃費は良いのでしょう。
では、高速道路を100km/hで走ったらどうでしょう?
もう1個余計なエアコンを使い、しかもエンジン回転数が高いとなれば、CVTに勝ち目はありません。
さらに穿った見方をすれば、CVTは変速比を自由に変えられるので、JC08モードに狙いを定めて変速設定をプログラムすることもできるわけです。

これは週刊誌レベルの話ですが、かつて某メーカーが世界に先駆けて直噴エンジンを量産化しました。
誇らしげに低燃費と排ガスのクリーンさを宣伝していた覚えがあります。
ただしこのエンジン、排ガスを測定するモード以外では、有害ガスダダ漏れであったため、運輸省(現国交省)が激怒。顧客に分からないように対策・修理したそうです。
まあ、このメーカーはその後にリコール隠し事件など、多数の問題が発生するので、ちょっと特殊と言えば特殊なのでしょうが、
しかし、この手の裏話は枚挙にいとまがないほどよく聞く話です。
そう考えると、今や燃費はカタログ上でもテレビCMでも「ウリ」ですから、各車にJC08用チューンが施されていても不思議じゃありません。

まあ、ソンナコンナで、CVTはドライブフィールもよくないし、実燃費も期待したほどではない・・・
となると、CVTは廃れるのか?
いやー、ナンとも難しい問題ですねェー。

2013年のデーターでは、全世界で65,386,596台の乗用車が生産されたそうです。
そのおよそ1割がCVTですから、約650万機のCVTが生産されたことになります。
となると、仮に開発者が「もうCVTはヤダァ!」と叫んだところで、650万機分の生産設備とか、償却期間とかオトナの事情がありますから、そう簡単に姿を消すことはないと思います。
ただし、長期的に見たら・・・

オッサンの皆様方であれば、長い人生の中で、様々な規格対決をリアルタイム、肌で感じてこられたことでしょう。
VHS 対 ベーター、プレイステーション 対 セガサターン、Windows 対 Mac、Blue Ray 対 HD-DVD。
どちらかが栄え、どちらかが衰退しました。
さて、このCVT 対 DCT、視点を変えれば日本メーカー勢 対 欧州メーカー勢。
どちらが勝つのか、あるいは両社とも共に存続していくのか、結果が楽しみです。

続く


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